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ジェフリイ・フォード「イーリン・オク伝」(SFマガジン 2006年12月号/中野善夫訳)読んだ。
海水浴客の作った砂の城に暮らす妖精トウィルミシュ。潮の満ち引きの数時間のあいだしか存在しない城で繰り広げられるある一人妖精の物語を、少女が貝の中から拾った「伝記」の翻訳という形式で語ったもの。形式と幻想の儚さ、美しさがマッチした逸品と言えるだろう。
今作や「アイスクリームの帝国」も収録されるであろう、東京創元社から刊行予定のフォード第二短編集がいまから楽しみ。

アンディ・ダンカン「ポタワトミーの巨人」(SFマガジン 2002年3月号/古沢嘉通訳/世界幻想文学大賞短編部門受賞作)読んだ。
実在のボクシングヘビー級チャンピオンであるジェスは、奇術師フーディーニの舞台への参加を断り不評を買う。その後寿命を全うするも、気が付くとフーディーニの舞台に客として座っていた数十年前の若かりし日に戻っている。今度こそ、壁抜けの誘いを受けるのか?
実在のボクサーや奇術師、その間のトラブルを用いつつ、あるべき人生のあり方をタイムループものの書き方で描いた佳品。歴史のモブと化した人物にスポットライトを当て、その細かなひだを丁寧に描く。

ジェフ・ライマン「ポル・ポトの美しい娘(ファンタジイ)」(SFマガジン 2007年8月号/古沢嘉通訳)読んだ。
カンボジアで瀟洒な暮らしを送るポルポトの娘。彼女のもとへ、ある時見知らぬ人々の写真がコピー機を通して送られてくる——それはポル・ポトの政策の犠牲となった人びとだった。青年との恋愛を通して、父の贖罪を決断する主人公。成仏を願う彼女に、真の幸せは訪れるのか。親の罪と虐殺された人々への赦しという重いテーマを扱ったゴースト・ストーリー。

スティーヴン・バクスター「ゼムリャー」(SFマガジン 1997年10月号/中村融訳)読んだ。
世界初の有人宇宙飛行を成功させたユーリ・ガガーリン。その数年後、彼はふたたび宇宙へ——今度は金星へと——旅立とうとしていた……。
ソ連時代の謎めいた宇宙開発の闇を絡めた一種の歴史改変SF。途中途中に挟まれる金星の鉱物生命体視点の描写が詩的で美しい。

アルヴィン・グリーンバーグ「ホルヘ・ルイス・ボルヘスによる『フランツ・カフカ』」(ナイトランド・クォータリー vol.24/垂野創一郎訳)読んだ。
ボルヘスが残した読めない文字で記された一編の物語。インディオのある部族の方言で記されたというその記事のコピーは、好事家の間で複写され増殖していく。
そして、そのなかに見られるあるシンボルが、全世界に、誰にも気づかれることなく浸透していく。そしてとうとう、フランツ・カフカ「変身」冒頭に登場する「虫」の概念をも上書きしてしまう……。
フィクションが現実を塗り替える逆説性、そして「カフカとその先駆者たち」の顕現とも言える世界の変容。素晴らしいボルヘストリビュート短編。これは読まれるべき。

今日買った本。『ラテンアメリカ文学のブーム』『乱視読者の帰還』がうれしい。

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