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皇帝が――と伝説には語られている――きみに、一介の人物、微々たる小臣、皇帝の太陽からおよそはるけさの極みに遠ざかった、目にもとまらぬ小さな影、ほかでもないそのきみに、皇帝が、崩御の床から、綸旨を送ったのだ。
・・・・皇帝は使節を派遣した。使節は即刻出発した。・・・・彼は翔ぶがごとくに疾走し、やがてきみは、使節の拳がきみの門口の戸を叩く高らかな音を耳にするだろう。しかし実は・・・・いまだに彼は、中央宮殿の間から間へと、必死の思いでたどりつづけている。
・・・・こうして幾千年が過ぎ去って行く。そして使者がついに、王宮の大手門からまろび出たとしても――しかしそんなことは未来永劫、起り得ようはずがない――彼の前にひろがるのはまだ、帝都の首都の眺めにすぎない、おびただしい滓がうずたかくたたみ重なる、世界の中心。誰ひとりここを突き抜けることはできない。あまつさえ、今は死者となった皇帝の綸旨をたずさえて、それが叶うはずはない。――しかしきみは、夕暮れごとにわが家の窓辺に座って、その綸旨のおもむきを夢のように思いやるのである。(カフカ『田舎医者』,円子修平訳,新潮社・カフカ全集1,1983年)

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