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本の読み方として、時間が経ってから読み直すと読んだ時とは受けとるもの、感じ取れるものが変わってくることがよくある。これは映画や音楽でもそうだけど、ルポルタージュ的な書籍の場合、個人的な感想だけではなく社会的事実、時には法理の前提までもが変わることがあり、結論が出たものとされるものの再検討が始まることも、よくある。それは人文でも科学でも同じであろう。

さて、昨年末に読んでない人からの強烈な抗議が大きな原因となり出版中止に話題になったシュライアーのIrreversible Damage。3年前に出たEconomistやTIMESがyear of The Bookに選んだ、診断ミスに端を発した医療過誤、薬害、児童虐待に関するベストセラーだが、私が読んだのは一昨年になるけど、今読んだとしても情報は古いし、出版後世界情勢は激変し「今」を知るには少し情報が足りていない。読んだ当時、体験者家族たちの話が生々しく、その部分に関しては今も鮮度は全く落ちていないのだが、こうした医療過誤、薬害が起きた原因としてあげられている仮説部分の突っ込みがかなり弱いなと思っていたんだが、ところがである。2024年の今、この本を読み直すと当時とは違う意味合いが出てくるのが面白い。

コロナ禍を経て三年間余、世界の、特に欧州の情勢はタビストックスキャンダル発覚以降大きく変わり、また急進左派系に引っ張られる形て左派政治セクターが社会的合意形成を省略して制度変更し着手しだすと左右問わず反発が生まれ、結果多数を維持できなくなることが続発したこともあり、欧州左派は踵を返し始めている。

Irreversible Damageで紹介されているROGD仮説は日本のWikipediaでは散々な解説をされているが、欧州各国の公的機関はこの仮説を肯定しているわけではないが「理解できないこと、説明できないことが起きている以上、立ち止まる」という安全防護の予防原則を用いている。

Irreversible Damage:発売後に出たタビストックスキャンダルを追ったTIMEtoThink、タビストッククリニックでの勤務経験ある医師によって書かれたdeTrance、アメリカの疑似科学追及のトップランナーであるザカリーエリオットによって書かれたbinary、これらを立て続けに読み終えた今、今一度Irreversible Damageを読み返すと、一昨年読んだ時とはかなり異なる感想を持つのは私だけではないはずだ。

「理解できないこと、わからないこと」が起きたとき、いろいろな立場による推論、仮説、様々な視点からの議論が必要になるのは言うまでもない。そうしたときに、権威を頼り、そこに阿り、議論を回避することの危うさ、怖さを我々は水俣、薬害エイズ、福島核災害で学んできたのではなかったのか?

たとえ結論が同じでも動機が同じとは限らない。誰が言っているのか以上に何を言っているのか。思考や議論をやめた先にあるものを考えておきたい

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