野﨑まど『タイタン』は、至高のAIにより人類が平和に暮らす近未来の話。
労働という労働が片っ端からAIのものとなり、人はただ好きなことをしていればよい。もちろん家事労働もなくお金の心配もいらないし、心身共に健康。
……一度こんな生活をしてみたいと思わざるを得ない!
それでも主人公はある事情により仕事をするのだけれど、仕事仲間との関係性を構築していく過程も楽しく読めたし、仕事というものについてよく考える機会にもなった。当たり前にあることを問い直す作業は刺激的で楽しい。
心理学を「趣味」としていた主人公の思索も興味深かった。
人類とAIの未来に関わる壮大な物語なのに登場人物がごく少ない。けれどみんなが魅力的でいきいきとしている姿が頭の中に浮かんできて、物語のキーとなるAIが登場したあたりからは最後まで何度も目を潤ませた。
感情移入というよりは、なんだか歴史的な瞬間の1ページに立ち会っているかのような驚きや感動があるのだ。
ここに書かれているのはテクノロジーが極限まで進んだ先の出来事であるはずなのに、まるで物事すべてのはじまりのような感覚も併せ持つ。
ドラマチックな展開に惹かれ続け、読み終わるのが寂しいとさえ感じた。