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皆川博子『ゆめこ縮緬』、なんとも言い表せない複雑な気持ちで読み終えた。八作品どれも濃密で一つ一つの物語が際立っている。
聞き慣れない言葉や言い回しも出てくるけれど、不思議とリズムよく読みやすく、大正から昭和初期にかけての時代を存分に味わえる短編集だった。

夢と現、生者と死者、正気と狂気の境目が曖昧で、ふとした瞬間にあちら側の世界に連れて行かれそうになる。幾人かの登場人物に業の深さを感じて、静かに溜め息を漏らすことも多かった。
理由の分からない妖しい夢を見たような、ひとときの幻想と禁忌に足を踏み入れたような、美しくも背徳的な手触りは癖になる。

主要人物は男も女もみんな悲しい現実に向かっているけれど、見えている景色は違ってそれぞれの地獄がある。時代的に、自分らしく生きる自由を奪われている少年たちと、男のために生かされているような女性たちが印象的で、悲しみや怒りを覚えるシーンもあった。

読み進めるほどに底の見えない深みにはまり、どの短編が良いというのが選べない。あれもこれも良い。
物語をひっくり返すようなことがサラッと書かれていたりもするし、しっかり読みきれていない部分が多々ありそうだ。
いつかじっくり再読したい。

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