西加奈子『通天閣』読了。
細々とした会話や一人一人の性格や癖がリアルで、実際にいる人だと錯覚しそうだった。世界はどうしようもないことだらけだし、別に楽しくもない、なんてことない日常の話が私は一番好きかもしれない。
二人の主要人物の視点が交互に書かれていて、舞台である通天閣周辺の実情が見えてくる。
生きていることになんの楽しみも見い出しておらず、決して輝いているとはいえない二人。
友人も恋人もなく、一人で食べて寝て起きて夢も希望も特にないまま仕事をする、そういう日常が書かれているのに面白かった。
語り手が変わるとき、おそらくその人物が見た夢の話から始まるのが印象的だった。
絶妙に辻褄が合わないところや夢特有の不気味なところ、本人の状況や感情が反映されているところ、そして夢の話には一切説明がないところが良かった。
何かが前進したり、良いことや面白いことが起きるわけではない毎日があることは、私にとっては心落ち着く癒しだったりする。
その地味で起伏のない毎日こそが人生のように感じているので、この本に書かれている日々に共感した。
望むと望まざるとに拘らず、孤独と自由を手にしている人間たちが愛おしく感じられる物語だった。