大濱普美子『猫の木のある庭』読了。
装幀に一目惚れして手に取ったが、中身も好みだった。六編の幻想譚が収められている。
静かで息を潜めたくなるような空気感の中、整った美しい文章が続く。静止した水面にひとしずくの違和感が落とされるような感覚があり、次第に波紋が広がっていく印象を受けた。
登場人物は様々な年代の女性であり、闇とまではいかずとも、それぞれ言葉にできない何かを抱えて、どうしようもないまま生きている。
六編どれも甲乙つけがたい。
猫と暮らす話、靴に取り憑かれる話、姉一家と人生を共にした話、魅力的な女に出会った話、赤ん坊の話、母の遺作の話。
よく考えるとひとつも自分と共通点はないのだけれど、その姿に共感を覚えるのが不思議だ。
人間のやることは、理由のあることばかりではないと思うし、世の中には説明できないこともきっとある。
スッキリしない微妙な気持ちを持ったまま生きて死ぬことも、恐れないでいいのではないかと思える。
例えが印象的だった箇所抜粋。
" この銭湯には、極度に高齢のお年寄りが多い。マッサージ機にかかったら、粗鬆症の骨が砕け体中がばらばらに壊れてしまうのではないか、と心配になるような高齢者ばかりを見慣れた目に、四十代始め頃と思しき中年女性の後姿は、そこだけ一幅の美人画を掛けたかのようなあでやかさで映った。"
(「浴室稀譚」より)