藤野可織 著『爪と目』読了。
表題作は二人称小説。継母の「あなた」と娘の「わたし」、はじめは混乱するがこの二人の密接な関係を思うと、入り組んだ表現になっているのも頷ける。
淡々とした語りと静かな違和感の連続で、読んでいるとわけもなく不安に駆られる。「わたし」が知らないはずの出来事までズルズルと引き出して語られるのは不気味で落ち着かない。何しろ「わたし」が三歳の頃の話だ。詳細な記憶が残っている方が珍しい。事実かどうかも分からないまま不安定に読み進めるしかなく、不吉な予感に苛まれる。
それなのにヒリヒリした言葉を夢中で追って楽しんでしまう。安心させてくれない話は刺激的で好きだ。
「あなた」はたしかに魅力的な人物なのかもしれないと思った。サラッとその場で演じ分けて人を魅了してみせながら、その目には何も映っていないのだと思うとゾクゾクする。いわゆる小悪魔?なんにも頓着しないところ、人の心がなくていいですよ。友だちにはなりたくないけど。
一見なんでもない話のようで確実に嫌悪が積み重なっていき、じわじわと「わたし」の意思に気付くという恐ろしい小説。
どうやら評価が分かれているようだけど、私は地の文が好みだったからまた他の作品も読みたいなと思う。