「カントをはじめ男性哲学者たちは、人間にとって何が義務であるべきかを語ってきた。しかし、あらゆるひとが、たとえば約束を真剣に受けとめるようになるには、誰かが、そうした人間社会の決まりごとを真剣に受け止めるよう子どもを育てる必要があろう。子どもに声をかけ、人間にとって言葉が果たす意味を体得させ、なぜ約束が破られてはいけないのか、噓をつくことは他者にどのような傷を与え、翻って自身の信用を失うことにもなるのか、誰かが子に教えなければならない。では、そのような子を育てる責任を担う道徳的理由はどこにあるのだろうか。噓の約束をしたり、約束を破ったりすることがいけないことだと判断できる道徳的な能力をつけたひとを育てる義務は、存在するのだろうか。この問いに答えることなくして、〈噓をついてはならない〉という義務は普遍化しえないのではないか。」
—『ケアの倫理 フェミニズムの政治思想 (岩波新書)』岡野 八代著
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