自転車をこいでいると両方のペダルからギリギリガリガリと嫌な音がするのが何ヶ月か続いていた。
しばらく前に近所の自転車屋で見てもらったら「寿命」とのことだったのであきらめてそのまま乗り続けていたが、がまんしているうちにみじめな気持になってきてよくない。
もう少し足を伸ばせば頑固で親切な別の自転車屋があると知り、だめもとで行ってみた。当然、行く途中もギリギリガリガリと足に小さな震動が伝わる。
狭くて古いお店の奥から出てきた高齢の店主はわたしの話の途中でペダルをつかみ、回して「音がしない。しない音は直せない」(原文は岡山弁)。チェーンからギアまでじっと見て「音がする理由がない」(同)。
それで切り上げようとするので、いや、待ってくださいよと店の前で自転車に乗ってみせた。2mと進まないうちにギリギリガリガリ。
店主の声が飛ぶ。「そりゃあんた、ペダルだよ!」はじめからそう言っている。
ペダルを外して調整し、ドライバーで店の床に見えない図を描いて原因を説明してくれたけれどもよくわからなかった(見えないので)。
そのあともういちど試し乗りをするとあんなにしつこかった嫌な音は消えている。「500円」。そんなんでいいんですか、とおどろき支払った。
作業の途中から店の外で外国人男性が高そうな折り畳み自転車といっしょに待っていた。わたしと入れ替わると、タイヤの交換をどうするなどと相談を始めた。もういちどお礼を言って店を離れると、背後で「ヤススギルヨー」と笑い声が聞こえた。
高齢で頑固で親切な自転車屋、もうここにしか行かない。