《地上は生きていくための場所で、嫌なものを見たり、嫌なものを聴いたり、嫌な臭いを嗅いだりもしなくちゃいけない。やれやれ! いわば死んだ河馬の臭いを嗅ぎながら、その毒気にやられないよう気をつけなくちゃいけないわけだ。ということで、わかるだろう。そこで力が必要になるし、腐った肉を埋めるための人目につかない穴を掘れるという自信が必要になる――身を捧げて尽くす力が。自分のためじゃなく、世に知られることない骨折り仕事のための献身。これは充分に難しい。》
コンラッド『闇の奥』(黒原敏行訳、光文社古典新訳文庫)p.122