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大学の同期だった深津が、プロになった数年後に故障で引退宣言して、三井さんは泡食って連絡するけど、深津はバスケ関連の人皆と連絡がつかなくなる。まあ深津は大丈夫だろと周りは言うけれど、バスケをできなくなったんだぞ、と三井さんはお腹がずっと冷や冷やしている。
ある日ポストに分厚い封筒が入っていて、開けたら読んだこともない文学雑誌がある。知らないペンネームばかりで首をかしげていたら、「XX賞受賞の新星」「驚愕のデビュー作」という触れこみの作品のページに付箋が貼ってある。

ページを開くと、付箋の根元に「デビューした」と深津の字で書いてある。それを見た瞬間に深津に通話をかけると、今までずっとつながらなかったのが嘘みたいに「もしもし」と声がする。
「お前……! なんだこれエッセイ!? え、小説!?」
「リアクションいいピョン。やっぱり最初に送って正解ピョン」
「何普通に話してんだよ今まで何回電話したと思ってんだ。え、引退して小説書いてたってことか?」
「引退してから書いたらこの賞に間に合ってないピョン。賞取った後の編集との連絡とかで色々気疲れしたピョン。いくつかインタビューの日程と、エッセイの連載決まって、少し休んだら自慢したくなったピョン」
「お前……本当ふざけんなよ」
「のたれ死んだとでも思ったピョン?」
「タイミングがあんだろがよ……」
「まあそれは悪かったピョン。泣くなピョン。俺は別に泣かないから」
「泣いてねえわ!」
「バスケ引退して、やりたいことまだまだあるピョン。とりあえず近所の店開拓したら7㎏太ったから、今度のオフにストバス付き合えピョン」
「絶対その後おごれよ」
「勝敗次第ピョン」
「誰が負けるか!」

通話を切って握りしめてた文学雑誌を見る。丸めていた雑誌を広げて、しげしげと眺める。深津の作品のページを開いて、文字が小せえと顔をしかめる。目の裏が熱くなって、まぶたの上から手で覆う。アプリの着信音が鳴る。バスケ仲間から次々とメッセージが来る。うるせえなと笑う。今度のオフに、雑誌へサインをもらおうと思う。

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