スタインベックの『缶詰横丁』、むちゃくちゃ好きなんですが、復刊しないかな。標本作りの先生、一癖も二癖もある横丁の住人たち、海辺の生態系――を描く筆致がすばらしい。

〝少年と犬が谷間からもがき登ってくる姿にひきつけられた。少年は肝臓を持ち、犬は先端に胃がぶらさがっている長々しい腸をひきずっていた。
 この時分の少年たちは礼儀正しかった。「おはようございます、おじさん」
「肝臓持ってどこへ行くのかね?」〟

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〝海水は非常に澄み、水底はせわしなく動き……闘い、喰い、生殖する動物たちの姿を見せて、珍奇であった。蟹たちは海藻の葉から葉へと突進した。ひとでたちは鳥貝や笠貝の上に坐り、無数の吸盤を付着させ、緩慢なしんずべからざる力でそららのえものを持ち上げ、ついにはそれらを岩から引きはがす。すると胃が自ら外へ出てきて、そのえさを包み込んでしもうのであった。橙色で、斑があり、堀溝のある裸鰓類は、スペインの踊り子の衣装よろしく、そのスカートをひらひらさせながら、優雅に岩の上を滑っていった。黒い海うなぎは岩の割れ目から頭を出して、えものを待ち受けていた。ぴょんぴょん小エビは音高く爪の引き金を引いた。愛すべき色彩にみちたこの世界は、外から見ると、ガラス越しに見てる感じだった。やどかりたちは興奮した子供みたいに底の砂を駆けた。その一匹が自分の殻から這い出し、一瞬その柔らかい身体を敵に暴露したのち、新しき、よりよき殻に飛び込む。〟

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