よく概説レベルで言われる、イ段乙類の成立に関わる話は、フィクショナルに感じられていた上代母音の区別が生きた日本語のことと感じさせられた意味で、自分にはこの上なく新鮮だった。「月(tuki2)」「木(ki2)」のki2はどちらも所謂イ段乙類だが、「月(tuki2)」〜「月夜(tukuyo)」のようにi2〜uに変化するものと、「木(ki2)」〜「木陰(kokage)」のようにi2〜oに変化するものがあることから、両者のより古い段階の形に*uiと*əiを想定する…などというのは知的操作としては理解できるもののリアリティは感じられなかった。しかし琉球諸方言には上代日本語で同じだった2つのki2が、きちんと対応する形で現存するとなると話は別。改めて考えるまでもなく、比較言語学の考え方に沿っている「だけ」のことでもある。しかし文献日本語学の側にどっぷり使っていた自分には、とても新鮮に感じられたのだった。(2/n)