ハン・ガン 「ギリシャ語の時間」読了。(結末に触れます)
意図せずとも暴力性孕む言葉に耐え切れず声を喪失した女性と、親しい人たちとの過去の悔恨と失われつつある視力に未だ戸惑う男性がギリシャ語を介し分かち合えぬ孤独と共に交差する。
男性は記憶の中の忘られぬ青を基調にビビッドな色彩がいまはもう見ること叶わぬこと儚むがごとくリリカルに一人称で書かれるのに対し、女性は凛とした清冽さ醸し出す三人称で書かれ、緩慢なる拒絶を基本とし、言葉発せた頃には墨の濃淡溶けだしたかのような思考滲むが、現在は閉じられた言葉が思考をも阻害し身振り手振りで感情心情推し量るしかない…。
後半、二人はあることきっかけに急速に近づいていき、暗闇に照明が当たる舞台劇のような場面で堰を切ったように男性は過去の出来事吐き出し解放されるも、女性は言葉に耐えるのみで、どこまでもすれ違うディスコミュニケーション。
それでもわずかに生まれたつながりは埋まらぬ溝を止揚し、詩のような文章の羅列のなか、光も差さぬ暗い海底に封じ込められていたがごとく亀裂が入った言葉が地上めがけて浮上し迸る、かぼそい明かりが見える先の開けたラストだと信じたい。
かなり難解でしたが素晴らしい作品でした。今年のベスト本の一作になります。