最近知って驚いたのだけど、亀井孝は、ソシュールのあの『一般言語学講義』の翻訳にも一役買っているようだ。訳者の小林英夫が1940年に岩波から『言語学原論』(現行の『講義』の旧版)の改訳新版を出すときに、亀井孝とともに原書と訳文の読み合わせを行い、助言をもらったと、訳者序文に謝辞が記されている。
「国語学者亀井孝氏には、別の役割を受持つていただいた。氏は専ら訳文の聞手となられた。眼によりも耳に訴へて、朗々誦すべき文章に仕上げるといふのが私の主張の一つであつたから、期せずして、私は振仮名廃止論を実践することとなった。私は氏から国語に関する該博な知識と繊細な感覚とを拝借したのである。氏と共に原書と訳文との読合せにすごした、うすら寒い東都の幾夜さを、私は忘れまい」
現行の『一般言語学講義』(1972)の訳者序文ではこう書き換えられているそう。「そのようにして朱を加えられた原稿にもとづいて初刷をえたが、こんどはこれを国語学者亀井孝氏の間に供した。わたしが氏から拝借しようとしたのは鋭敏な語感である。国語国文にたいする氏一流の潔癖は、わたしの訳文の、想いもよらぬ所に盲点をあばいてみせた」
これは亀井孝の弟子の田中克彦によれば、ソシュールの原書の誤植を亀井孝が見抜いて、小林英夫に教示したものらしい。すごい話。以上は、E. コセリウ『言語変化という問題』(田中克彦訳、岩波文庫)巻末の訳者解説から。
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現行の『一般言語学講義』(1972)の訳者序文ではこう書き換えられているそう。「そのようにして朱を加えられた原稿にもとづいて初刷をえたが、こんどはこれを国語学者亀井孝氏の間に供した。わたしが氏から拝借しようとしたのは鋭敏な語感である。国語国文にたいする氏一流の潔癖は、わたしの訳文の、想いもよらぬ所に盲点をあばいてみせた」