ボギー・タカーチ編Rosalind’s Siblings (2023)を読みました。周縁化されたジェンダーの科学者を詩と小説でことほぐアンソロジー("Fiction and Poetry Celebrating Scientists of Marginalized Genders")です。
作家・詩人・編集者ボギー・タカーチが、物理化学者ロザリンド・フランクリン(1920-1958)の子孫からこのテーマで編纂を依頼されたそうです。Locus誌の年次おすすめリストに入っていました。タカーチは「インターセックス、アジェンダー、トランス」者です。
収録作はごく短いものが多く、印象に残らない話も正直結構あります。
私が一番引きこまれたのはキャメロン・ヴァン・サントの“LDR”です。志願者を集めるため身長そのほか制限が引き下げられたNASAの任務で、語り手の小柄なトランス男性は金星に行きます。上司の薦めで出会い系サイトに登録しますが、秘匿義務のため南極駐在中と嘘をつきます。かくして年下のトランス男性とメール文通を始めますが、実は相手のほうも嘘をついていて……。本書のテーマに応えた話ですし、描写の解像度や結末の多幸感が良かったです。作者自身もトランス男性。
atthisarts.com/product/rosalin

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カニカ・アグラワルの超短編も良かったです。これは実在する日本の生物学者岡崎恒子(1933-)と岡崎令治(1930-1975)のDNA複製にかかわる発見をモチーフにしていて、作中で連呼される「オカザキ」がオカザキ妻なのか、オカザキ夫なのか、発見物オカザキ・フラグメントなのかをあえて識別しにくい形で書いているという、実験小説っぽい作品です。
私は寡聞にしてモデルとなった方のことをよく知らず、読後に岡崎恒子氏のエッセイ「岡崎フラグメントと私」を読んだのですが、これも貴重かつ面白い文章で、読む機会を得られて幸いでした。
brh.co.jp/s_library/interview/

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