楽しみにしていた、ベンハミン・ラバトゥッツ『恐るべき緑』(松本健二訳、白水社)を読みました。帯には「チリの新鋭による奇天烈なフィクション!」と書いてあります。
内容の説明が難しいのですが:章ごとにフォーカスされる科学者は変わる。科学者たちは傷病そのほか苦痛に苛まれ、アイディアを孕みつつ煩悶する。新発見がときに毒となり、人々を害する。とりわけ世界大戦と大量死のイメージが反復され、チリの山間部を舞台にした私小説的なエピローグにまで影を落とす……。という破滅に満ちた小説です。
史実の面白エピソードと完全なるフィクションをうまいこと盛り合わせ、「爆発寸前の高圧力タンク」「密度の高い物語」(訳者あとがきより)に仕立てています。
文章の格好良さ、イメージの重なりや反復で勝負しているところがいいです。
(「私たちが世界を理解しなくなったとき」の章は、ヒロインが病で衰えていく神秘的な天才少女で少々鼻白んだのですが……)
hakusuisha.co.jp/book/b638527.

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たとえば第一章「プルシアン・ブルー」は、ナチスドイツが敗戦を悟って自決に用いた青酸カリ、章題にある青色顔料(有毒)、世界大戦で用いられた毒ガス兵器といった毒の蘊蓄と歴史が虚実織り混ぜつつ延々と語られます。
最後に引用画像のような段落が配置され、大いなる不安と破滅がそそりたちます。二章目の「シュヴァルツシルトの特異点」も相似する構成で、ただし最後に待ち受ける破滅はブラックホール。

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