Readingsカールトン店で買ってきた'After Australia' (2020)を復路の機内で一気読みしました。ペーパーバック270ページを読む体力気力がまだ自分に残っていたことに安堵しました。
Indigenous writersやwriters of colorの作家の作品集で、何編かはSFです。思ったよりエッセイや私小説が多かったですが、読んでよかったと強く思いました。
Michelle Lawの“Bu Liao Qing”は気象変動で荒廃したシドニーを生きる中華系少女の壮絶な話です。ちなみ固有種の鳥ではクロトキだけが生き残り、適応している設定でした。
Khalid Warsameの“List of Known Remedies”は初の詩集が出版されたばかりの詩人とその交遊関係を描いた、メルボルン暮らし小説です。カウンセラーに勧められて友達が引き取った保護犬と主人公も思いがけず愛やトラブルを育んでいったり。習い事で出会った、芝居関係の仕事をしている中華系の女性と交流するようになったり。バイト先の多様なバックグラウンドの人たちと会話したり。シャイな文化系の語り手のユーモラスな語りが良いです。
sweatshop.ws/after-australia

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Zoya Patelの“Displaced”もほんのりSFで、語り手はフィジー系オーストラリア市民の女性です。大学ではアートを専攻していがしたが、今は役所で事務員をしています。世界中から気候変動で難民となった人たちがオーストラリアに押し寄せ、社会に余裕がなくなり……という話です。これも恐らくはかなり私小説に近いですが、パンチラインの多さや切実さから本書の白眉ではないかと思います。
他にSF風味が明確な作品には、おそらくゲイ寄りのバイセクシュアルであるアラブ系の語り手の視点から、白人のみがかかると噂される感染症で社会が混乱する様子を描いたOmar Sakr“White Flu”(コロナ禍前に書かれたそうです)や、Claire G. Colemanの周囲からの評判が落ちると市民権が剥奪され、突如として不法移民のように扱われる“Ostraka.”などがありました。

アンソロジー'After Australia'は総じて社会に牙を剥かれる恐怖や規範から疎外される体験を綴った話が多いです。しかも日本とも地続きの、かなり普遍的な問題として捉えられました。
たとえば女性2人の家庭に精子ドナー提供を受けて生まれたインド系オーストラリア人の私小説であるSarah Ross “Stitches Through Time”の、神父や政治家のなにげない発言(自分の家庭が考慮されていない、認められていない点に)に傷つき続けるくだり。
あるいはコンゴ系オーストラリア人Future D. Fidelの“Your Skin is the Only Cloth You Cannot Wash”は、ソーラーパネルの訪問営業の仕事をしていたら各戸を回っている間に警察を呼ばれ、住人不在の住宅からテレビを盗んだ容疑で留置所に連れていかれ、取り調べを受けた逸話です。

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