呉勝浩『Q』(小学館)では、主な語り手「わたし」ことハチが出生時に女性と割り当てられているものの男性的な装いや髪型をしていて、作中で具体的なアイデンティティのラベルが出てこないし、出版社による登場人物紹介でもジェンダーを示さないよう回避されています。冒頭を読んで、もっと凶悪に暴れるのか、バイセクシュアリティが描かれるのかと思ったものの、どちらも荒んだ過去の話で現代パートでは踏みこまれませんでした。でも終盤でアクションヒーローではあったし、主体的に支配者を打ち破りはします。あとコロナ中の暮らしを取り入れた物語でした。
※注意:なお克明ではないものの、本書には語り手が性的なものも含む加害を受けた逸話が出てきます。

荻堂顕『不夜島(ナイトランド) 』(祥伝社)と佐藤究『幽玄F』(河出書房新社)は共にマイ年間ベスト級の冒険小説なんですが、その一方で女性登場人物の表象や不在が気になるところでもあって。
そうした面で、ジャンル小説で今まで書かれなかった女性たちを書いていたのは王谷晶『ババヤガの夜』(河出書房新社, 2020)だったなと。

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去年の冒険小説の話題の続き。これは完全に個人の好みの問題ですが、新馬場新『サマータイム・アイスバーグ』(ガガガ文庫)と『十五光年より遠くない』(同)はあまり刺さらず、しかし同著者の『沈没船で眠りたい』(双葉社)は良かったです。
学生運動から端を発して反ロボット運動が過激化しつつある近未来、ある女性はなぜ人型ロボットを抱いて海に飛びこんだのかという謎が、遡行して明かされていくクライムフィクションSF。恵まれない境遇にある女子大生と一見恵まれている女子大生の、青春と墜落の話です。いわゆる難病もので、その部分は割と現実から遠いのですが、関係の深まる過程が丁寧でした。

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