森山 至貴/能町みね子『慣れろ、おちょくれ、踏み外せ―性と身体をめぐるクィアな対話』(朝日出版社)とても良かったです。
丁寧語による対話形式なのが本書をやわらかい雰囲気にしていて、読者も「そうなんですね、初めて知りました」とか「うん、わかるわかる」とか、相づちを打つ感覚ですんなり読めるのではないかと思います。やわらかさの何が良いかというと、「自分は不勉強だから」とか「苦しい体験をしっかり受けとめなければ」といった読者の気負いを解きほぐしてくれるところ。
一方で各章のテーマにはなかなか人と話しづらい話題も据えられていますし、体系的にクィア史や現在の課題を知る機会を得られる本です。
今年読んだ本では、キム・チョヨプ/キム・ウォニョン『サイボーグになる テクノロジーと障害、わたしたちの不完全さについて』(牧野美加訳、岩波書店)に似ている感じがしました。リラックスした対談ですが、鋭さもある。
私は能町みね子さんの著書をたくさん読んでいるわけではないのですが、普通の会社で埋没して生きるクィア女性の日常、こじらせやモテないをテーマにしていた時期、一風変わった事実婚など、トピックこそ人生と共に移り変われど、常にうっすら共感する部分があった気がします。日常的であることと、日常に対する観察眼の鋭利さの2点で特異な作家と思っています。