ヘレン・オイェイェミの短編集『あなたのものじゃないものは、あなたのものじゃない』(上田麻由子訳、河出書房新社)は複雑に調合された香水やスパイスのようで、一度読んだだけではとてもつかみきれない。連作短編ではないが、ある短編に登場するキャラクターが別の短編にしばしば顔をのぞかせる。幻想/超常的な要素もあり、明快な筋やオチがないことも多い。
ケリー・リンクやマーゴ・ラナガンが好きな人におすすめしますが、クィアな人が続々出てきたり、パーティの乱痴気騒ぎがあったり、アフリカンや中欧より東や北のルーツの登場人物が出てきたりしてもっと色々と混交しています。
比較的明快なストーリーでロマンチックな「本と薔薇」や「ケンブリッジ大学地味子団」が薦めやすいですが、より変な話も捨てがたい。狼に腰を叩かれたらこぶができて、それを切り取ったらいい匂いが漂いだして、それをガチョウに食べさせてみたら変化が起こって……という謎の伝承みたいな「ドルニチュカと聖マルティヌスの日の鵞鳥」とか。
人と「なんだこれは……」と言いながら解釈を話し合いたい1冊です。
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何より、属性で理解や関係性が断絶しておらず、色んなみんなでつるんでいるし、スタンスも時に揺らぐところが好きですね。なお著者はナイジェリア生まれ英国育ち、ここ10年ほどチェコ在住です。