セバスチャン・バリー『終わりのない日々』(木原善彦 訳、白水社)をやや駆け足に読んだ。ややモヤモヤするところもあったが、ひとまずはハッピーな結末に安堵した。
本書は19世紀米国を舞台にした西部劇的な小説である。ただし作者バリーはアイルランド人。主人公はアイルランド飢饉の際に米国に移民した少年トマス・マクナルティ。彼は現地で出会った少年ジョン・コールと共に、まず鉱夫向けの酒場で女装して酌婦をし、成長すると軍隊に入って命じられるがままに戦うようになる。
トマスはジョンと関係を持ち、ネイティブ・アメリカンの少女ウィノナを助けて3人家族になる。最終的に脱走兵となったトマスはジョンの妻を装い、潜伏するのだが……。(感想つづきます)
https://www.hakusuisha.co.jp/smp/book/b624993.html
ちなみに白水社の日本版あらすじには私は不満がある。
舞台の当時は言葉や概念が存在しなかったから、トマスのセクシュアリティやジェンダーは本書では謎のままだ。はっきりしているのは女装がトマスに解放やめざめを与え、ジョンの傍らに堂々といられる安らぎを感じさせることだけだ。ジェンダーフルイド、ノンバイナリー、ジェンダー・ノンコンフォーミングかもしれない。
だから、あらすじの「勇敢な兵士でありながら女としてのアイデンティティーに目覚めたトマスによって、生き生きと語られる」という1文はバイナリー(男女二元的)すぎるし、なんらかのクィアであるトマスを限定的に語りすぎている。
木原氏の訳文は役割語を使わず、きわめてフラットな語りになっているのでそこは安心してほしい。
セルフ訂正。
>ジョンやウィノナの考えや性格は、読者にはまったくわからない。
正しくは、どんな人物かはあまり描かれませんが、トマスが窮地に陥ったとき、大事に思っていたのは双方向だったと判明します。そこまではトマスにとって彼らが大事であることしかわからない。