【2024年観た映画・1】麦秋
小津の映画は「東京物語」以外初めて。
耳を澄まして台詞を聞き取っていると大人の際どい冗談やらセクハラ的な下ネタ会話が不意に飛び込んできて少し驚いた。今日の右だの左だののイデオロギーの枠に収まらないストーリーが味わい深い。
現実として家父長制の社会だったわけだし、男が仕事から帰れば家の女が着替えを手伝っていたわけで、それを活写することは肯定することと当然イコールではない。
むしろ肯定的に描きたかったのは「結婚したくなったらいつでもできる」と言いきって、上司の紹介や家長の下調べをあっさり反故にして、幼馴染の男やもめとの結婚を女同士で決めてしまう主人公だろう。ここの杉村春子の演技は、ユーモアも切なさも相まって最高。新しい生き方を、やみくもに肯定するわけでもなく不安視するわけでもない、誠実なエンディング。