ちなみに「お世話しなさい」って言われたので則宗はちゃんと清光のお世話をする
放っておくと自分のことを全然構わない清光くんに、髪や爪のお手入れをしてあげてやり方を教えて、髪を結ぶ可愛いリボンを選んだり服を選んだりする
清光くんは最初のうち、オークションで買ったんだから俺のこと抱くつもりなのかなって覚悟してたんだけど全然そんな気配もなく、そのうち則宗の隣ではすっかり安心し切ってくつろいで寝ちゃうようになる
一方則宗は競り落としたのはあくまで義憤にかられたからであって庇護すべき存在としか清光のことを見ていない
まあ金はあるからなうはは!とか思ってる
自分の隣でへそ天で寝るようになったのも可愛い、懐いてくれるのも可愛い、どっちかって言うと猫ちゃんとか親戚の子供みたいな感覚だった
そう、あの男が現れるまでは
というわけでうっすーらと清光への特別な気持ちを則宗は自覚したわけだけど大倶利伽羅は別に元カレでもなんでもなく、普通に幼馴染なだけだった
お隣さんだった清光が急にいなくなったからあちこち探し回ってくれたらしい
いいやつだな、まあ坊主は僕が競り落としたんだけど!と鼻息フスフスしてる則宗を大倶利伽羅はじっと観察してた
大倶利伽羅は、ろくでもないオークションにかけられたけど結果オーライでどうやら今は幸せにやってるらしい清光の様子を確認するとちゃっかり長義と清光と連絡先を交換して帰って行った
そして則宗は知るよしもなかったが、去り際二人きりになったときに清光に「あのふわふわした頭の方には気をつけろよ、悪いやつじゃなさそうだがすけべジジイの気配がする」と耳打ちをしていったのだった
慧眼である
さて清光はその日から改めてすけべじじいの気配がするふわふわ頭を観察するようになった
顔がいい
声がおそろしくいい
そして体がめちゃくちゃいい
腹筋はバキバキだし力持ち
何より清光にすごく優しい
甘すぎるって時々長義に叱られているのを清光は知っていた
しかし長義も長義で「内緒だよ」と甘いものやら美味しいものやら可愛いものをくれるので、ふたりともどっちもどっちだと清光は思っている
それはさておいて
自分を競り落とした則宗に、そして自分を大切にしてくれる則宗に、清光は少しずつ惹かれているのだということを自覚するようになった
しかしどうやって気持ちを伝えればいいのかわからない
気まぐれで落札しただけの坊主から愛の告白をされたって則宗も困るだろう
そんなこんなでモヤモヤしてるふたりを長義はちょっと冷めた目で見ていた
だってこの二人どう見てもいい感じだから
長義は自分の色恋についてはサッパリで、好きな子に「偽物くん」とか言っちゃったりする大失敗を繰り返しているけど、他人の心の機微にはけっこう敏感なのだった
ちなみに「偽物くん」はガチ本気で長義のことが好きなんだけど長義は全然信じてなくて自分の切ない片想いだと思い込んでいるんだけどそれはまあさておいて
則宗が清光を落札して数年がそんなふうに平和に過ぎていったのだった
数年の間に清光は調査会社の正社員になって社会保険料なんかを払うようになり、そして同時に、一人前の調査員だからと単独でお仕事をするようにもなっていった
いつも仕事中一緒にくっついていた則宗と清光は、別行動することの方が多くなっていった
そんなある日
依頼人がやって来た
かれらはぞろぞろと集団でやって来た
狭い事務所なので応接セットに入り切らず、やむなくお客さん全員を座らせて則宗も清光も長義も立って話を聞くことになった
総勢七人のかれらは雰囲気も装いもばらばらだった
口火を切ったのはその中で一番幼く見えた眼鏡の青年だった
「りぃだぁを探してほしいんです」
長義はちょっとチベスナ顔になった
アイドルグループのセンターを探したいのならここじゃなくてオーディションを開催した方がいいんじゃないのか
しかし話はそうではなかった
今まで自分たちと一緒にいたりぃだぁが、ある日忽然と姿を消したらしいのだ
話を聞くうちに清光の顔色が変わっていった
自分があの闇オークションにかけられることになったときと、状況が驚くほど似ていたのだ
三人は考えた末その依頼を引き受けた
もしかしなくてもこの件を解決したら清光をあんな目にあわせた連中にギャフンとかキャインとか言わせられるんじゃないかという予感があった
で、なんだかんだでりぃだぁこと豊前を無事見つけ出して闇オークションに潜入する清光と則宗(長義は待機)
なぜか一緒にきた江の面々と組んで豊前を競り落とすことに
眼鏡の青年こと篭手切が開始価格に物言いをつけて場をざわつかせるなどのアクシンデントもありつつかれらは無事りぃだぁ豊前を救い出し、ついでにそのオークションを取り仕切ってた悪の枢軸三条たちをやっつけることに成功した
そして清光は晴れて自由の身になった
則宗が競り落とすために使ったお金を取り戻したのだ
これで清光はもう、「則宗に落札された坊主」ではなくなった
その男は突然現れた
本当に前触れもなく則宗たちの事務所にやって来て、そしてなんの迷いもなく清光に手を伸ばした
「あんた、こんなところにいたのか」
褐色の肌に美しい鱗模様の刺青をした若い男は、則宗にもわかるくらい嬉しそうな顔をしていた
仏頂面だったけど則宗には彼の安堵がわかった
「大倶利伽羅……」
と清光が言う
則宗は直感した
元カレとかそういうやつだ!