仕事相手に取引をやめるよう圧をかけられ脅されても平気な顔だった則宗、相手が「あなたのパートナーさん…綺麗な方ですよねぇ?今は南仏の別荘にいらっしゃるんでしょ?」と露骨な脅迫に切り替えた途端顔色が変わる
「よせ」
と唸るように言う則宗に卑劣漢はニヤニヤ笑いながら携帯を取り出して見せ、今すぐ取引中止の指示を出さなければ電話をかけて別荘を襲撃させる、向かわせてるのは特殊部隊上がりの金のためなら何でもする連中だと得意げに語る
が、則宗は動かない
よーしわかった、こっちも本気だ!と現地の工作員に連絡を取った卑劣漢の携帯ごしに、「ギャアアアアアアアアア」というきったない悲鳴と銃声と何かがバキバキに壊れる音が響く
焦る卑劣漢を見ながら則宗はがっくり肩を落とす
「ああ…だからよせって言ったんだ…どうしてくれる、あの別荘は清光のお気に入りなのに、汚したり壊したりしたら僕が怒られるんだぞ」
そんなわけない、あいつらがやられるもんか!と怒鳴り返す卑劣漢の携帯からちょっとけだるげなハスキーな声が響く
「ちょっと則宗、どーしてくれんだよせっかくのバカンスなのに別荘ボロボロじゃん!」
「すまんなあ、礼儀知らずが押しかけちまって」
謝りながら則宗は部屋の隅に立っていた秘書に目配せして卑劣漢を退場させた
閉まるドアの向こうからくぐもった悲鳴と何かを引きずる音が聞こえなくなると則宗は思いっきり甘い声で囁く
「これからすぐにそっちへ迎えをやるよ。サントリーニ島で落ち合おう」
「新しい水着買ってくれる?」
「もちろんだ。とびっきりセクシーなやつで頼む」
「いーよ、じゃあ後でね」
則宗の最愛のパートナーが則宗の最強のボディガードだということすら知らなかったあの卑劣漢のことは、則宗の頭から綺麗さっぱり消えていた