それがさ、19世紀の小説っていってもシュニッツラーとか最高だし、ホフマンの『 スキューデリ夫人』なんか つかみはバッチリという入り方で最高にサスペンスな中編が始まる感じがビンビンなんだよね。
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それはルイ14世の御代であった。暗夜のパリに強盗・殺人その他あらゆる悪徳が横行した時代である。深夜、スキューデリ夫人のわび住まいを訪ねる者があり、強く扉を叩く音がする。開ければどのような暴漢が押し入ってくるかと、家にただ一人の召使いマルティニエールは恐ろしさに震えながら、妹の結婚式だとかで留守にしている門番男のバプティストの間の悪さを呪っていた。しかしそうするうちにも扉を叩く音はどんどん強くなり「お願いでございます!なにとぞお開けください!火急のお願いに参ったのでございます。イエス様のお名前に免じてどうか開けてください!」