『みちづれ』
先のない道を歩いていた。
犬の姿をした死神は、黙って後を着いて来る。
私が足を止めるその度に、黒い毛並みの死神はささやいた。
「もうよろしいのか」
良くはないと、私は答える。
「では、よきようになさい」
死神は、死は、斯様にして寛容だった。あてどなく歩き続けることよりもはるかに甘く、やすらぎに満ちている。
本当はわかっていた。私がかつて私であったところはもはやひどく遠くにあり、たどり着くことはできないのだと。これはただ一瞬の長い長い後奏なのだ。
再び歩き始めた私の背後に、柔らかな影が付き従う。
私たちの道行きはどこまでも続く。いつか、振り返った私がかれの黒いつま先にこの手を乗せるまで。ずっと。