カズオ・イシグロ『クララとお日さま』読了④ 

テーマについて考える。
AFであるクララが、ジョジーとの親交を通じて、人間が人間をかたちづくるためのもの(=その人に対する愛)を知る……っていうのが作品のテーマかなと思う。

ただこの作品、だからと言って「クララとジョジーの友情」が一番重要な部分かと言われればそうではなく、「母親の葛藤や選択」の方が強い気もしている。
ジョジーの母親、リックの母親、向上処置を受けた子たちの母親……ここに入れていいのかはわからないけれど、店長さんも。
そういえば冒頭に、「母・しず子をしのんで」とある。

これは完全に個人の感想なんですけど、クララも、ジョジーの親友というよりは母親の立ち回りに近かった気がするんだよなあ。

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カズオ・イシグロ『クララとお日さま』読了③ 

ちなみにこの結論を語るのが六部構成の第六部、ラスト。しかも廃品置場で。そう、クララは最後捨てられてしまう。しかも何かがあったというより、どうやらこれはAFの運命というか、明言されていないが、子どもが成長したら捨てられるものらしいというのが読んでいると雰囲気でわかる。いや本当に……イシグロの作品のこういうところが好きです。

・クララが溶液をクーティングズマシンに流した後の、品質が落ちた表現もすごい。そしてそのタイミングでの人間の感情の波や恐ろしさの表現も。
どこか牧歌的でもあるジョジーとの家での暮らしと真逆の、洪水のような、畳みかけるような文章。こんな恐ろしい話を読んでいたんだっけ…と思わされる。

・リックの母親が突然放った「ファシスト」という言葉に驚く。『日の名残り』を彷彿とさせるよね〜
向上処置を受けた子と受けていない子。少女とAF。
父親の所属する、かつてはエリートだった人たちのコミュニティ。──イシグロは人間や社会の上下関係や、コミュニティの存在を当たり前のように組み込んでくる。日本で生まれたのちイギリスで育ち、イギリスに帰化した彼ならではの感性なんだろうか。

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カズオ・イシグロ『クララとお日さま』読了② 

以下ネタバレあります。

この世界では「向上処置(=遺伝子編集)」を受けた子と受けていない子で明確に差別されることが第二部で判明する(しかもかなり唐突に)。かつ向上処置を受けることで弱ってしまう子もいるらしく、ジョジーの姉はそれで亡くなったことが分かる。
ジョジーもどんどんと弱っていく。

母親の計画は、ジョジーのAF(ロボット)を作り、ジョジーのことを学習しよく知るクララの知能をその器に入れ込むことで、ジェシー本人亡き後も「ジョジーを継続する」というもの。読み進めていく中でいやーな予感がしていたけれど当たってしまった。

クララは最後、ジョジーを継続することはできたと思うが完璧な再現はできないと語る。
「......どんなにがんばって手を伸ばしても、つねにその先に何かが残されているだろうと思うからです。......」
継続できないような特別なものはジョジーの中にはない、との言葉をクララは否定する。
「……特別な何かはあります。ただ、それはジョジーの中ではなく、ジョジーを愛する人々の中にありました。……」
人工知能は他人になり得るか、ある人を完全に模倣できるか。行き着くのは人間の「愛」とは何か、ということ。ここの回答の導き方はすごく綺麗。

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カズオ・イシグロ『クララとお日さま』読了① 

AF(人工親友)のクララが、人間のジョジーにお迎えされて、色々学んでいく話。

ジョジーは「向上処置」を受けた結果、どんどん弱っていってしまう。そんな折、ジョジーの母親の計画も明かされていく。クララはジョジーを救いたく、お日さま(クララはお日さまの光をエネルギーにしている)の特別な加護をジョジーに与えていただけるよう奮闘する……といった流れ。

カズオ・イシグロの世界らしく、なんの解説も無しに「向上処置」「クーティングズマシン」といった用語が出てくるところも面白い。
語り手であるAFのクララの視界(ブロックに分かれて……ってやつ)もユニークだなあ。自分の想像しているものがあっているのかどうか答え合わせしたい!

後半からは『神様のボート』と似ていた。この人の書く母娘はどちらの視点もリアルで、だから読んでいるとちょっとしんどくなってくるんだけど、でも『神様のボート』よりは救いがあったなと思う。茉莉と帰国後のさきがわりと健全に向き合えていたから。
最後、さきとアミはどうなったのかなあ。どうとでも取れる書き方だった。わたしたちね、に続くのは、「結婚しようと思うの」「こどもができたの」「別れたの」。
なんとなくだけど、別れたんじゃないかなあと感じる。

茉莉の父が亡くなるシーンは、さらりとした描写なのに苦しくなった。たぶん江國香織は、死を取り扱うのがうまいんだ。『抱擁、あるいはライスには塩を』や『落下する夕方』でも、さらりとした手触りの、けれど悲しく、切なく、あの人にもう一度会いたいと思わせる死の書き方をしていたなぁ、と。

茉莉はこれからも「一杯のお酒」に助けられながら生きていくんだろうな。お酒の飲みたくなる作品でした。

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『左岸』読了📕

江國香織『左岸』と辻仁成『右岸』。江國香織が好きなので、上記を知らずに左岸を購入。
恋愛、お酒、奔放。不倫がないだけで、江國ワールド健在だなあというかんじ。読み進めていく中で急に超能力とか出てきて「?」となったけど、これは『右岸』を見ないと分からないんだろうなあ。九(主人公の幼馴染。右岸の主人公)が事故に遭った件もその事実のみさらっと書かれているだけで、何があったのかは分からない。九の実家の事情も後半でようやく触れられて(この出し方はちょっとカズオイシグロに似ている)、右岸の内容の情報がないから驚いたけどこういうの嫌いじゃない。

何か救いがあるのかなと思えば別にそうでなく、大きな事件の解決があるわけでもない。テーマはなんなのかと考えても、たとえば「人生」「愛」みたいな広いものになってしまう。右岸を読まなければ補完できない部分が多いこともあって余計にとっ散らかった作品に思えてしまう。
ただしばらく考えた結果、「これは茉莉という一人の女性の半生記だ」と思ったら腑に落ちた。出会いがあって別れがあり、挑戦(時には無謀な)があって反省がある。失敗と成功、手放したもの、手に入れたもの、忘れられないもの、忘れたもの。生きているとそういうものがたくさんあるから、いろんな話題が降ってくるんだな、と。

江國香織『左岸』、だんだん『神様のボート」みたくなってきたな。

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