“本作で特徴的な台詞回しとして、同じ内容をくり返したり、噛み合わない会話を延々続けたりといったものがありました。これを演じる難しさは、単に滑舌や台詞の暗記だけには留まらなかったはずです。「“自然な”言いよどみ」「“自然な”無意味な反復」「“自然な”噛み合わない会話」、まとめて言えば劇中会話としての「“自然な”不自然さ」を演じなければならない困難さがあるのではないでしょうか。フィクションの会話は、どんなディスコミュニケーションを描いていても、われわれの日常会話より遙かに洗練・整理されているのが常です(会話を録音して書き起こすとよい)。本作もそれは同じで、洗練・整理されているのですが、だからこそ、これを「自然に」かつ「不自然に」聴かせるのは、鍛錬のたまものであろうと思います。こういうことができるのも演劇という形態の強みですね。小説でやるとかなり前衛的になってしまい、ここまでの訴求力、エンタメとしての面白さは失われるでしょう。すくなくとも会場をドカドカ笑わせるのは、視覚・音声芸術ならでは、あるいは生身の人間がそこにいることの説得力ゆえと思いました。”
演劇は、生きた人間が目の前に立っていることにより、小説に比べると反則的なくらい「リアリティ」を高められるので、そんでじゃあ何をするか、という感じがあってよかったです。