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植民地とそこに生きる現地の人々をフィクションはどう描くかの話について。
『RRR』が日本でヒットしたとき、「植民地支配者が暴力的で現地の人を物理的に痛めつけて喜んでるただのサディストのように描くのは単純化ではないか」という議論があったのを思い出した。
植民地支配者をただのサディストと描くことが単純化だというのは同意。
しかし、「現地の人に直接的な暴力をふるったり明確な酷い発言をしたりは絶対にしない植民地支配者」が出てきたときに「いい人」や「これも一つの正義」だと受け取る人が出てくる。これが問題をややこしくしているなぁと思う。

「植民地民を人間だと思ってなくて暴力を振るうことを楽しんでる単なるサディスト…ではない植民地官僚」、まさに『ゴールデンカムイ』の鶴見中尉がそうなんだけど、そうなると途端にこのキャラがゴリゴリの植民地主義者なことと、このキャラが属する国家が植民地支配をしていることが脱色されて、感想や善悪を「キャラ個人の精神的な問題」に集約しちゃう受け手(ファン/オタク)が多すぎた。
たとえ個人間の関係だと優しい人だったり特に相手を見下したりしていなくても、植民地支配に肯定的な植民地主義者である時点で救いようのない絶対的悪である、という前提がそもそもこの世界に十分根付いてない。 1/

植民地官僚が植民地で現地民と家庭を持ってたり、現地民と友達になってたり、そういうのは事実としてあったし、今もあるし、でも個人間の関係でいくら気のいい奴だったとしても植民地官僚な時点で構造的差別や間接的虐殺に加担してる最悪のゴミクズ野郎だっていうのが共有されていない。
そういう「植民地で現地民と仲良くやってる植民地官僚キャラ」を出すこと自体にリスクがある。絶対に「本当はいい人なのに🥺 これも一つの正義なのに🥺 このキャラに支配されてた方がこの土地の人も幸せ🥺」とか言って植民地主義に親和的な観賞者が出てきてしまう。そのリスクを作り手はコントロールできない。

これは日本に限った話ではない。
『RRR』も、「暴力的なサディスト」(単純化された悪)として描かれた提督夫妻が植民地支配者の「悪」を全部背負っていて、現地民と現地文化を侮辱したジェイク(「ナートゥをご存知か?」とラーマに尋ねられたイギリス貴族のキャラ)は作品のファンの間でさえ「憎めない奴」くらいの「愛されキャラ」扱いになっている。 2/

『RRR』のジェイクみたいな、直接的な暴力を振いまくったりはしないけど現地民をめちゃくちゃバカにはしてくるような、当時の大多数だったであろう現実的な植民地官僚しか出てこなかったら、ラーマがなぜあんなにも革命に人生かけているのか理解できないどころかラーマを"狂人"だと感じる観客の方が多いと思う。
アカデミー賞を含む映画賞で『RRR』の「ナートゥ」ダンスシーンが、ただ楽しいダンスパーティとしてのみ扱われ、あのシーンが植民地民による宗主国民への反抗であるという物語性は脱色された。
そして『ゴールデンカムイ』の鶴見中尉みたいな、基本的に物腰柔らかで植民地民のことも直接的に差別したりはしない、個人としては愛情深くて、仕事は強引ながらもやり通すカリスマ性もあるキャラも危うい。魅力的な「植民地主義者のキャラ」を通して、植民地主義者になるファンが発生するから。
鶴見中尉は敵役(悪役というより主人公たちの敵役)ながら、「愛の人」「彼には彼の正義があった」「彼なりに護国した」という描かれ方で、ファンの間でもそう受容されていて、植民地主義者である時点でクソ野郎(ナチと同レベル)の悪なのだという理解は、悲しいかなファンダムにも浸透しているとは思えなかった。3/

なので、
⚫︎植民地主義者をわかりやすく悪として描くしかない (そうじゃないと植民地主義の支配と思想に正義を見出してしまう受け手が大量に出てきてしまう)
⚫︎魅力的な植民地主義者キャラを描くリスクが大き過ぎる (植民地主義者である時点でクソ野郎という理解が浸透していないから、植民地主義者を思想込みで擁護や支持するファンが大量に出てきてしまう)

……というのが世界的な現状なんだろう。ここを突破していきたいよね。植民地主義は差別思想で悪だという共通理解を作っていきたい。
メディアが達成すべき脱植民地主義の実践の一つだと考えている。
(けど、ナチズムでさえ「一つの正義」扱いする奴が後を絶たないのが現状…。しんどいけど前進して行こうね……。)  4/4

ずっとこの話してるけど、書いておきたいので書く。
6/1のポリタス「セトラー・コロニアリズム(入植植民地主義)と北海道|解体が始まった北海道百年記念塔。北海道と入植植民地主義との関わりと問題点を研究者とアーティストに聞く』にて、『ゴールデンカムイ』における北海道とアイヌ(先住民族)の表象についての批評があったので、私も『ゴールデンカムイ』の満洲と華人の表象について、華裔としての私の意見を残しておこうと思う。
『ゴールデンカムイ』は好きな漫画だし、あとキロランケがめちゃくちゃ好きなんだけど、ちょくちょく極右のプロパガンダっぽくてキツいな〜って表現もあり、最終回と最終巻を読み終えてから「うーん…結局これは植民地主義を否定してない作品だったな」と思い少し距離を置いていた。

『ゴールデンカムイ』作中で、わりと序盤から満洲は「鶴見中尉の野望の地」の一つとして登場するんですが、ずっと「(アヘン畑になるはずの)肥沃な土地」としてのみ表現されていて、人が住んでる土地であることが無視され、開拓対象としてだけ出てくる。
これ、めちゃくちゃセトラー・コロニアリズムだなぁと思う。 1/

北海道の描写も決して「良い」とは言えない(漫画の面白さとは別に植民地主義や歴史改竄の問題点が常にあるよね……)が、一応はアシㇼパやキラウㇱといったアイヌのキャラが自治権や土地の所有権を主張するくだりがあり、北方領土ではウイルクの故郷の村が消されて狐農場にされてしまったシーンがあり、ロシアではキロランケやソフィアらが政府に弾圧される少数民族のため蜂起していた描写があった。
しかし、満洲はどうだ。満洲人/華人/華僑はキャラとして一人も登場しない。満洲/中国はどのような国で文化なのかも触れられない。ひたすらに「(アヘン畑になるはずの)肥沃な土地」としてのみ登場する。
植民地に現地民が住んでいることを無視して「無人地帯」とし、その文化も歴史は都合の良いモノだけ奪い、現地民を弾圧/強制移住/虐殺して排斥しする。宗主国の者はそこへ入植し、「肥沃な大地」を「開拓」する。
「無人地帯」の「肥沃な土地」を「開拓」するロマン、ド直球の入植植民地主義が、『ゴールデンカムイ』における満洲描写だった。 2/

鶴見中尉の「満洲をアヘン畑にする」という野望それ自体は、分かりやすく邪悪で、作中でも否定されていた。しかし、第七師団という「北鎮」のため部隊の存在は否定されることもなく引き継がれ、さらには第七師団長になることが「大団円」の一つとして描写された。
第七師団は、日帝が北辺を統治するために北海道に置いた、開拓と防衛のための屯田兵を主体とする軍隊だ。第七師団が鎮める北辺には、東北や北海道はもちろん、当時日帝の傀儡国家であった満洲も含まれている。
第七師団が存在し続け、第七師団長になることが「大団円」として描かれるとき、そこには間接的とはいえ植民地主義の肯定がある。
『ゴールデンカムイ』は満洲に対するセトラー・コロニアリズムを、「アヘン畑」以外は肯定し続けた。
私はそれが特に辛かった。私のルーツが中国、旧植民地の満洲だからです。
(満洲近隣の地域である天津かもしれないが、戦争のせいでもはや祖父の家系が中国のどこから来たのか辿ることはできない。そして天津も日帝による実質的な支配権だった。) 3/

『ゴールデンカムイ』作中でも満洲はずっと「肥沃な土地」としてのみ表現され、植民地支配を間接的に肯定されていた。そして、それはファンダムでも同様だった。
これだけ物語の中枢に満洲が絡んでいるにもかかわらず、華人/華僑がただの一人も登場しないこと、満洲が「日本に統治されるべき土地」としてのみ描かれていること、キロランケらアイヌが徴兵されていたのと同じように当時の日帝軍人に相当数の華人/華僑が徴兵されている(そして危険な任務に率先して送り込まれた)はずがそうした話は一切ないこと、最終巻では結局満洲が鶴見中尉の暗躍の地として利用されていること、などを「中国、満洲に対する植民地主義的描写だ」と問題視していた人は、本当に少なかった。
(私が去年これらについて自身のルーツを明かしたうえで批評ツイートしたら、結構な数の攻撃リプが来たよ 笑)

セトラー・コロニアリズム/コロニアリズムは、日本社会でまともに反省されることなく、学ぶ機会も少なく、そのわりにあちこちのメディアやコンテンツに含有されて転がっているので、知らず知らずに刷り込まれ内面化されていて、特定地域や民族/人種への植民地主義思想を抱えてしまっている人は相当数いるんだろうな……。
と、自戒込めて振り返った。もっと学んでいきたいな〜。 4/4

このスレッドは、満州という旧植民地にルーツをもつ一人の当事者としての、メディアにおけるセトラー・コロニアリズム的描写への所感を書いたものです。
どっちの地域への植民地主義の方がマシだとか酷いとか、こっちのがツラいとか、そういう話がしたいわけでは全くないですよ。一応書いておきますが。
植民地支配は、どの国や地域、どの民族や人種に対して行われるものも、全て「最悪」であり、植民地主義は「差別思想」です。
私もコツコツと学んで実践していくので、みんなも一緒に脱植民地主義していこ〜〜!!✊🏼
おわり。

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