「伝統的な美」からの脱却と改革は面白かったし、マティスの描き創る肉体も色彩も美しいのだけど、そこに至るために非西洋の芸術や美的感覚をマティスは吸収していて、そのインプット/アウトプットについては肯定的評価だけ終わらせて良いものではないとも思う。
展示においては、マティスが当時の伝統的な美を脱しようと模索していたことを年代毎に紹介し、キャプションにも「エキゾチック」等の語彙が登場するが、肯定的な評価のみに留まっている。マティスが「伝統的な美」を脱却・改革しようとしたとき非西洋の芸術を"利用"したことについては、植民地主義/オリエンタリズムであり、それへの批判的検討が展示に全く無かった。
図録に収録されたアラステア・ライトによる論考『「プリマティヴィズム」─アフリカ芸術的との出会い』(p.206-215) では、マティスの視線と芸術に植民地主義が含まれていることが批評されていた。 2/
個人的に一番良かった作品は、「豪奢、静寂、悦楽」(1904)だったかもしれない。
目を患ってから最初に実物を観た点描画の名画が、この『マティス展』の「豪奢、静寂、悦楽」(1904)だったんだけど、本当に色が混ざって見えてめちゃくちゃ綺麗だった。
点を打たれていることは見えているのに、その点の色が隣接する点の色と混ざって見えるのよ。元から私はド近眼で乱視が入ってるんだけど、近視と乱視だけだった頃とはまた違う見え方だなぁと実感した。
印象派って目を患ってからの方が楽しめるのかも。これはポジティブ過ぎるかも知れないが、見ても分からん物や見えない物が増える代わりに、今から本当に楽しめる物もあるんじゃないかと思える。
点描が印象派から誕生した技法で、物の輪郭や色ではなく光や雰囲気を描こうとした模索であり、代表的な画家に眼病を患っていた人物が多いこと、無関係ではないんだろうな。
みんなが観て感動している(そして私も観て感動した)「睡蓮」とか、私はこれからもっと楽しめるんじゃない?! と、眼病の進行を恐れるだけでなく楽しめる気持ちになれるので、美術館は好きだな。
私は見えなくなっても美術館や映画館に通うと思う。その時は、盲の芸術家が見た世界が見えるでしょう。 4/4
しかし、マティスが良くも悪くも自身の芸術に"利用"した非西洋はアフリカだけでなく、アジアや中東、東欧もだけど……。
展示にも着物を着た官能的な女性画「アルジェリアの女性」や、アングルやドラクロワの"東方趣味"作品と同じ題材である「赤いキュロットのオダリスク」、制作助手であったロシア人女性リディア・デレクトルスカヤをミューズにした作品は着物やカミーズを着たものから裸婦まで多岐にわたる。
このように、明らかに「エキゾチック」な「新しい美」の題材として選ばれた非西洋としての"東側"があるのだけど、これに対する植民地主義あるいはオリエンタリズム批評は図録にさえ登場しない。どころか、「オリエンタリスム絵画とは違って(中略)新たな発想を指しているのである」(p.76)と肯定的評価をされている。
いやいや、マティスの作品も立派なオリエンタリズムですよ。芸術的・歴史的価値もあるし美しいけど、それはそれとして、オリエンタリズム・植民地主義を内包した作品だよね。
この点は残念だった。
物販コーナーはめちゃくちゃ豪華で楽しかった。グッズがたくさん。景気がいいね。
限定ショッパー(物販の買物袋)が、マティスが手がけたヴァンス・ロザリオ礼拝堂のステンドグラスを模したデザインなの可愛くて良いね〜。 3/