[本]『南光』朱和之(訳・中村加代子) 春秋社
自分にとって現時点で今年のベスト小説。
日本植民地時代の台湾に生まれた南光が生きた時代を、彼が残した作品を下敷きに小説という形式で克明に描き出した傑作(巻末に写真12点掲載)。植民地下に生きる人々の生活が圧倒的なディティールの積み重ねで語られ、毎ページに付箋を貼りたくなる濃密さ。
……台湾人の写真館は神社の前での結婚写真を撮る権利がなかったり(おいしい仕事は日本人の独占)
……台湾人の目には(その白い幟をはためかせた様子が)葬式にしか見えない出征のための壮行会を、日本人に目をつけられないために、どうしてもやらなければならなかったり……数々の抑圧と不自由の中で生きていく人々の苦悩、諦観、したたかさが胸に刺さります。
「日本が降伏したあの日(中略)ありとあらゆる照明やネオンが申し合わせたように輝きを取り戻した。日本兵は律儀に持ち場の見張りに立ち続けた。中国人は彼らを取り囲んで歓喜の声をあげ、徹夜で街を練り歩いた」(これは上海の描写)
しかし、→
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