[幌メモ その51]
都筑道夫『やぶにらみの時計』中公文庫
作者初の書き下ろし長編ながら野心的で意欲的な作品。
朝、目覚めたら「別人」になってしまっていた、ある青年。
彼は如何にして自分を取り戻すのか──。
この物語を作者は二人称で書き著しました。とても実験的な試みです。
📚 第二人称小説とは、作者が地の文で読者に「君は」と語りかけてくる小説のことを指します。この作品では本来の自分を喪失した主人公の心理状態と、詳細な情報を知り得ない読者とを同調させるため、そして物語の展開に不安感を植え付け、更に混乱させるために二人称を試用したのだと思います。
📚 ただ作中、ある人物に語らせた「作者の海外ミステリへの造詣の深さ」や「ミステリへの姿勢」が強く印象に残っただけに、例えその論理構成に矜恃があっても作品として実験的な手法を採用した必要性を感じられる物語を丁寧に綴るための「もう一捻り」は在って然るべきだったとも思いました。
📚 以上は私の感想ということでご了承下さい。最後まで夢中で楽しく読みましたし、機会があれば是非、読んでもらいたい作品です。
読了日 2018年5月15日
[追記] この作品は2021年に徳間文庫〈トクマの特選!〉で復刊されています