詩人とお付き合いしていたおねえさんの話。其ノ壱(前回のとは違うイメージで)すべては妄想。
季節をいくつかまたいだように錯覚していたのは、あの年が後から振り返れば冷夏と呼ばれる気候だったせいなのだろう。
実際には、秋の初めに出会い春が来たかという辺りでさよならしたのだと日記とも言えない大きな買い物や出来事、病院などに行った記録を適当に付けていた雑記帳のようなものが出てきた時に確認した。
あの頃、あたしは本なんか読まなかったし、あの子が名乗った時に知らないと答えたのは嘘ではなかった。
それでも、ごくたまに気まぐれにデパートの本屋を覗くこと位はあって、詩のコーナーに見覚えのある名前の付いた本があるのに気づいたのは別れた後だった。
まぁ、時々ぶつぶつ呟いていたあれが詩という奴なら、詩人だというのは本当だったのかもしれない。だけど、本を手に取ることはしなかったし、別に現実には、あの子の今なんか知りたくはないのだろうと他人事めかして呟いてみる。
本人曰くの「俺はワケあり物件なんだ」という発言の真意についても同じだ。あの頃のあたしは、寒い夜にあたためてくれる人肌がありがたかったのと、悪いことをするにはおかしな具合に真っ直ぐな子に見えた。知り合いの誰かに会わせていたら評価は違っていただろうか。