オソの肉はそうと知らぬ間に流通に乗り、都会のジビエ料理店で調理されテーブルに乗る。
番組最後にオソの肉を出した店が映る。首都圏の建物がぎっしり建てこんだ街の、とあるビルにある店だ。
オソが住んでいた森を知らないだろう都会の人々が笑いながら熊の肉を食べ、野性味がどうとか、食べてやったぞみたいなことを言う。
正直腹が立った。田舎者の根性ではあるが「都会モンが」とも思った。そして恐ろしいと思った。その肉の背景を何も知らないし、そもそも想像すらしないだろうことを。更にはそれは私も同じだとも思った。私が食べる肉。彼らより生産者に近いとはいえ、パックになる前の工程を任せきりにしているのだから。
五十嵐大介のコミック『魔女』の「クアルプ」という物語を思い出した。ジャングルを卑劣な方法で拓かれ部族のものを殺された呪術師クマリの戦い。緻密に立体的に描かれるジャングルとクマリの圧倒的な力の表現。命懸けの戦いは結局現代の武器の前に倒される。
そして最後、開拓と売買、流通の結果、塵となった彼らの命の断片は都会のハンバーガーショップに辿り着き、何も知らぬ塾帰りらしい子供達に食べられるのだ。
ところで今回のNスペでは躊躇なく熊の遺骸も解体の様子も映す。これは私は評価したい点。
熊だけでなく鹿やなんかの解体して使えないところを解体業者さんの敷地で堆肥に埋めて積んであるようなんだけど、オソもここにいる、とこんもりした小山を指される訳だ。で、あまりに手懸かりが少ない故に結局この山を掘り返すことになる。もう頭が下がる。ここから見つかったオソの骨を分析することで完全肉食になっていたと分かるのだ。