山本義隆,原子・原子核・原子力,岩波(2022).あとがきから抜粋.これは山本先生が,2013年に駿台で,高校生・浪人生・大学生・物理科の他,日本史・数学科の教職が聴講する中,講義で語った一部をそのまま書き下ろしたもの.
“ もちろん,専門の勉強はあります.法学部にゆけば法律の勉強が必要になり,医学部にゆけば医学の勉強が必要になります.しかしそれ以外に,それ以上に勉強してもらいたいと思います.これまで,そのような専門以外の勉強は「一般教養」と呼ばれてきました.昔から「教養を身につけなさい」と言われてきました.しかし一体何のために教養を身につけるのでしょうか.あれは,つきつめれば見栄を張るためです.でもそれも決して悪いことではありません.若い時には,知的な見栄を張ることも知的な成長の大きな要因です.
しかし,それだけじゃないんですね.勉強するということは.教養を身につけるだけではないのです.じゃあ何のためかと言えば,世の中いろんな問題があります.人類のこれまでの歴史で,結局世の中の仕組みとして一番良さそうなのは,民主主義であるということになりました.けれど民主主義というのはけっこう大変で,「誰かにおまかせ」では済まない.ときには自分の頭で考えて判断することが迫られるわけです.そのようなときに →
→ 自分は専門外とは言ってはいられません.事柄によっては,専門家を自称している人たちに任せておいては,とんでもないことになるということは,今回の原発事故(3.11)でよくわかりました.結局,勉強する目的は何かというと,いろんな問題について,自分で考えて,自分の言葉で意見を言うことができるようにするためなのです.”