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職場読書会『情動と理性のディープ・ヒストリー』ジョセフ・ルドゥー著 駒井章治訳 終了。こんなに壮大なスケールで知識もてんこ盛りで高度に統合された本は初めてで、すごく感動した。前著『エモーショナル・ブレイン』にも感動したけれど、それを遥かに超える大著である。
著者はヒトという種の他の生物との相違について考察する際、ヒトから類人猿へ、哺乳類へ……と遡っていくと、必ず他の生物を擬人化して考えてしまうから、そうではなくて、地球が形成されてから約5億年後の今から40億年前の、すべての生命の祖先LUCAという今では存在しない原始生物から始めた。
核を持たない細菌と古細菌から始まり、細菌が古細菌に無理やり入り込むことで核とミトコンドリアが生まれて、原核生物から真核生物が生まれた。そこから植物と動物と菌類ち分かれ、カイメン、クラゲを経て動物は神経系を発達させる。そのうち左右対称の身体を持つようになると無脊椎動物(甲殻類)と脊椎動物(魚)に分化し、移動が楽になると、魚にはエラや鰭ができる。この頃がカンブリア紀で、植物が増えて多量のO2を産出したことにより水中にいた魚が鰭を使って陸に上がり、肺で呼吸するようになる。そして爬虫類、鳥類、哺乳類が生まれた。

トカゲ類は恐竜へと進化し、彼らは昼行性だったので、哺乳類は食べられる側だった。だから食べられないように夜行性になり、小ぶりの身体で恐竜が入り込めない高蜜度の森に住んだ。恐竜は全盛期だったのだけれど、6600万年前に何からの事情で全滅した。おそらく食べ物がなかったために20kg以上ある生き物は生命維持出来なかったから。小ぶりだった哺乳類は生き延びることができた。また爬虫類から進化したけど小ぶりだった鳥類も生き延びた。
脊椎動物が生き残るために重要だったバウ・プランは神経系を発達させたことである。そして中枢神経系と末梢神経系を構成し、脳が生まれた。
ここでようやく脳の話になり、ここからはヒトの脳の働きについて深めていく。認知、情動、意識、言語。。あまりに量が多いので大幅に端折るが、自分、私自身、私の、といった自覚的意識を持てるのはヒトだけである。これは言語があって初めて成立することなので。著者はここで、ヒトは特別であるが他の生物と同じように特別なだけで、上とか高度とかではなく単に異なるだけなのだということを確認している。生存率ではかるとして、種の寿命が尺度ならば古代の単細胞生物より優れたことはけっしてできないと。

そして、この自覚的意識と言うのは、私個人の意識であり、諸刃の剣であると。生き物は全て利己主義だけれど、ヒトは自覚的意識を盛ったことで、自分の存在を終わらせることを寿命に選択出来るようになった。また、一般的に有用なものと有害なものを分けるだけでなく、私にとって有用かどうかということだけを重視して自己愛的な選択をすることもできる。そしてインターネットが出来たことで便利になった反面、伝聞や噂、嘘を通して一般的に受け入れらてきた信念を否定して自己中心的であることを容易にし、科学を揺るがし、政府をはじめとする社会基盤やセーフティネット、専制政治に対するチェックを攻撃することに用いられてきた。この一世紀の変化は急速で猛烈になり、気温は上昇し、森は燃え、種の絶滅速度は加速している。危機感を持つ人々は、地球を救う努力を呼びかけているけれど。

しかし著者は、天文物理学者アダム・フランクが「地球はタフなやつだ」と言ったことを引用し、過去にも大きな災害や大量絶滅を乗り越えてきているから地球は生き延びるだろうと述べる。そしてヒトは絶滅しても、細菌と古細菌は間違いなく生き延びる、と。また、ヒトの絶滅は悲劇ではないと、むしろ世界は豊かになるかもしれないと、哲学者トッド・メイを引用して言う。
私たちは種として存続する場合にのみ個として存続する。それは私たちの自覚的意識に依存する、と結んでいる。
……本当に多くの面で学ぶところが多い本だけれども、最後が特に刺さった。職場の女子社員たちも、私たちはうかうかしてると絶滅してまた細菌からやり直しだよね、と言っていた。そしてそうなりそうなのでほんといや。
人の心理にかかわる仕事をしてる人は絶対読んでほしい本です。

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