サイレント・ツインズ

ポーランド映画祭2023
予告で映像が良い感じだったので見た。

冒頭からストップモーションと共に子どもの声でキャストを紹介しながら「良い俳優だよね」などとメタ発言も飛び出すオープンクレジットに面食らう。続いて双子どうしの明るく軽快なラジオごっこのシーン。笑顔や冗談が飛び交い、映像も暖色系のフィルターで仲睦まじいなーと思ってるとドアのノックと同時に急に双子は口をつむぎ映像も寒色系のフィルターに変わる。この一連で一気に惹き込まれる。

何らかの理由で(要因となったであろう人種差別などの要素は作中に含まれてはいる)双子どうしでしか会話をしないカリブ系の女性、ジェニファー・ギボンズとジューン・ギボンズの成長と葛藤と衝突と別れと。イギリスでは誰でも知ってるレベルの実話らしくオペラやドラマやドキュメンタリーはすでにあるんだけど映画化は初とのこと。マスコミの「センセーショナル」で「ゴシップ」的な扱いに辟易していたジューン・ギボンズ本人が唯一「素晴らしい」と認め、しかも創作を再開したというトークセッションで明かされた事実が示す通り、一筋縄ではいかない二人の関係性を周囲からではなく、徹底して主観的に描く手法が光っていた。

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二人の脳内世界はストップモーションアニメだったりミュージカルだったりと常に華やか(かつほんのりグロテスク)で、殺伐としていて人権や人命が軽視される寒々しい現実とは非常に対照的だったけど、それは決して二人を突き放すためではなく、二人と二人の創造/想像する世界を高らかに称えるかのように、全力で豪華に、絢爛に演出されていたのが良かった。
さらにこれがシンプルに視覚的にも楽しめるもので、イルミネーションのように自由自在に点灯するトンネルの照明、”コーラ浸し”のリビング、ヤン・シュヴァンクマイエル的クリーチャー表現などなど、様々な手札で観客を飽きさせない。終盤のダンスシークエンスから繋がるラストカットはついこの間のアンドリュー・ヘイ『異人たち』を彷彿とさせるものだったけどそこまでの展開に説得力があったので「またかよ」とはならず感動と感傷に包まれた。『ゆれる人魚』から引き続き起用のZuzanna Wrońskaによる歌曲もとても良かったな。ラストで流れる”We Two Made One”ではジェニファー役のタマラ・ローレンス(たしか冒頭の字幕ではローランス表記)も参加していることを踏まえるとよりグッとくる。他の曲にもボーカルで参加しているみたいでキャリア的には新人っぽいけど気になる人。『スモール・アックス』にも出演

また周りから見放され、差別され、精神疾患があると診断されて監獄のような場所に収監されて、それでもわかりやすい「反省」はせずに懸命に生き、自己実現を図ろうとする二人のカリブ系女性という表象は、実話に即したものであるとはいえエンパワメントを感じる。近年の作品でフェミニズムが存在しない映画なんてあるか?って言えるくらいの状況ではある(本邦は除く……)とは思うけど、この映画も間違いなくフェミニズム映画の一つであると自分は思う。

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