二人の脳内世界はストップモーションアニメだったりミュージカルだったりと常に華やか(かつほんのりグロテスク)で、殺伐としていて人権や人命が軽視される寒々しい現実とは非常に対照的だったけど、それは決して二人を突き放すためではなく、二人と二人の創造/想像する世界を高らかに称えるかのように、全力で豪華に、絢爛に演出されていたのが良かった。
さらにこれがシンプルに視覚的にも楽しめるもので、イルミネーションのように自由自在に点灯するトンネルの照明、”コーラ浸し”のリビング、ヤン・シュヴァンクマイエル的クリーチャー表現などなど、様々な手札で観客を飽きさせない。終盤のダンスシークエンスから繋がるラストカットはついこの間のアンドリュー・ヘイ『異人たち』を彷彿とさせるものだったけどそこまでの展開に説得力があったので「またかよ」とはならず感動と感傷に包まれた。『ゆれる人魚』から引き続き起用のZuzanna Wrońskaによる歌曲もとても良かったな。ラストで流れる”We Two Made One”ではジェニファー役のタマラ・ローレンス(たしか冒頭の字幕ではローランス表記)も参加していることを踏まえるとよりグッとくる。他の曲にもボーカルで参加しているみたいでキャリア的には新人っぽいけど気になる人。『スモール・アックス』にも出演
また周りから見放され、差別され、精神疾患があると診断されて監獄のような場所に収監されて、それでもわかりやすい「反省」はせずに懸命に生き、自己実現を図ろうとする二人のカリブ系女性という表象は、実話に即したものであるとはいえエンパワメントを感じる。近年の作品でフェミニズムが存在しない映画なんてあるか?って言えるくらいの状況ではある(本邦は除く……)とは思うけど、この映画も間違いなくフェミニズム映画の一つであると自分は思う。