マイ・エレメント
監督が韓国にルーツがあること、それが作品に反映されていることは事前に聞いていたので物語をすんなり飲み込めた。コリアタウンを模したコミュニティが街の下側にあって水が流れ込んでくるという展開はパラサイトを思い出す。
違う人種とのラブストーリーをこういう形に翻案できること自体は物凄いし、いつものピクサーらしくアニメーションも半端ない。アニメ的な水とハイパーリアルな水が画面に共存していて困惑する。字幕では「メラつく」「アンビリーバブル」といった上手い訳が多くて楽しかった。”Tide and Prejudice”を考えた人にもそれを「高潮と偏見」と訳した人にも拍手。水族がどうやって線香に火をつけるのかや名札を隠しても隠してもズームされてしまうギャグなど各属性を生かした演出もてんこ盛りで抜き出せば楽しい。インド音楽っぽい劇伴もかなりカッコよかった。
そしてウェイドのノンバイナリーのsiblingが字幕や吹替で「妹」とされてしまっている件はまだ日本に単数theyにしっくりくる言葉が周知されてない、日本の翻訳側が名前でしか呼ばないみたいな対応を考え付かなかった、そもそもこの作品のノンバイナリー表象が適当というか少な過ぎるのでわかりにくい、という3つの問題があると思う。「彼人(かのひと)」みたいな言葉を使ってる人はいるけどまだ浸透はしてない気がするし「ピクサー初のノンバイナリーキャラ!」と大手を振って言えるような表象とも言えないので余計話が複雑になってしまっている。ひとつひとつの問題に丁寧に対処しないと今後また同じようなことが起こり得るので、この作品に関わっている全員が、そしてこの作品を見た人全員が何かしら解決方法を考えてみるのが次に繋がる。
ただ物語の筋はあまり好きではなかった。ウェイドが能天気白人キャラ過ぎて好きになれなかったからかな。ファーストインプレッションが最悪なのはラブコメのお決まりだとしてもその後の「え、言えば良かったのに」的なセリフが癇に障ってそれ以降も考えなしに『招かれざる客』的なシチュエーションを作ったりしてて無意識な加害が目立つ。あの「アクセントが綺麗だね」のオッサンめちゃくちゃムカついた……。
あと炎族の現状は都市の連中の怠慢のせいなのにそれをエンバーが尻拭いさせられるのもよくわからなかった。行政がやるべきことを個人の努力に委ねているのに特に批判の視座が無い。
終盤は近づいて離れてなんやかんやあって仲直りが急過ぎて雑に感じてしまった。「なんとか話を畳まないと!」っていうスピード感。ラブコメとスペクタクルの食い合わせが悪かったのかな。