ソニア・スライマーン「ムニーラと月」(「KAGUYA Planet」No.2)。パレスチナの名が冠されていることも手伝い、作品単独での感想はまったくまとまらない。ただ、自分が普段考えていることと照らすと、そこから(不可避的に)思考が拡がる箇所がいくつもあって興味ぶかかった。
これはメルヘンではないのか、あるいは、ここになんらかの点でのパレスチナ性はあるのか、と脱力する読者もいるのかもしれない。ただ気になった部分は、物語比較的序盤の「人間を地上から拐って恋人にしてしまう男のジンの話はたくさんあるけれど、女性のジン(ジンニーエ)の恋人になった女性の話なんて聞いたことある?」を含むパッセージ。ファンタジー的な意匠を纏っていても、この箇所は社会における束縛しようとする男性とか、異性愛を規範からの逸脱として斥ける態度へのちいさな声による異議申し立てとしてある。ただ、自分自身が男性読者なので、なにか根本的な思いちがいをしているかもしれない。(つづく)