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これはまるで神話のように聞こえるが、もしかしたら、魂の文学とはそういう神話に他ならないのかもしれない。それは不断に消え失せては、不断に現れる伝説であり、人間の中の永遠に治癒することのない痛みでもある。個人についていえば、魂の書き手の苦痛は、おのれの苦痛を証明できないことにある。彼は一篇また一篇の作品によってその苦痛を刷新するしかなく、それが彼の唯一の証明なのだ。こういう奇妙な方式のせいで、永遠に破られることのない憂鬱が彼ら共通の特徴となっているが、その黒く重い憂鬱こそ、まさに芸術史の長い河を流れる活水の源なのである。たゆみない個体がこうして内へ掘り進む仕事に励むとき、彼らの成果は例外なく、あの永遠の生命の河へと合流する。なぜなら歴史はもともと彼ら自身のものであったし、彼らがいたからこそ、歴史が存在し得たのだ。教科書の上の歴史と並行するこういう魂の歴史は、もっとも鋭敏な少数の個人によって書かれる。だが、その歴史との疎通し、通い合いは、すべての普通の人に起こりうる。これはもっとも普遍性を備えた歴史であって、読み手は身分、地位、人種の制限を受けない。必要なのはただ、魂の渇きだけである。」
残雪「精神の階層」近藤直子訳

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