七夕坂夢幻能と「教授」1
七夕坂夢幻能の蓮子とメリーは、東方夢時空の「教授」こと岡崎夢美と共通点が多い。
「超統一物理学」を専攻する蓮子は、学会発表のために論文を書く。その内容は「異界」や「夢の世界」を量子論的に解釈しようとするもので、学会の主流とはかけ離れた「異端な学説」だった。メリーは自分が蓮子に代わって異界の存在を証明すると意気込み、異界への扉を求めて七夕坂へ向かう。
岡崎夢美は科学が発達した平行世界の人間で、大学で「比較物理学」を教えている。同時にオカルト好きでもあり、統一理論に当てはまらない「魔力」の存在を主張するが、学会には全く相手にされない。魔力や魔法の存在を証明するため、夢美は「可能性空間移動船」に乗り、魔法や超常的な力が存在する幻想郷へやってくる。
「異端な学説」を主張する蓮子と、異界の存在証明のために自ら異界へ赴くメリー。二人の姿は、先述した岡崎夢美のものとよく似ている。まるで夢美が二枚の鏡の前に立ち、それぞれの鏡に映った鏡像のように。
七夕坂夢幻能と「教授」3 もう1つの「タブー」
2つ目は、七夕坂夢幻能が「タブー(禁忌)を破る」をテーマにしていること。サブタイトルの「Taboo Japan Disentanglement」や「タブーを忘れるな」の一文のように、今作は「タブー」に繰り返し言及する。
「タブーを破る」とは、禁じられた行為をすること。メリーは七夕坂の習わしに従わず、「禁断の扉の向こうにある世界」を見ようとした。蓮子も「文化財として動かす事を禁じられている」地蔵をひっくり返している。しかし、これらは秘封倶楽部の普段の活動とさほど変わりはない。
一方、七夕坂夢幻能で初めて破られようとした「タブー」がある。それは「物理学による異界の証明」だ。蓮子は「異界」や「夢の世界」を量子論的に解釈し、論文を学会で発表しようとした。世界を科学的に理解する物理学で異界の存在が証明されれば、多くの人間に異界が暴かれることになる。
単に異界を見たり、足を踏み入れたりするだけでなく、その存在を物理学的に証明することが、七夕坂夢幻能のもう1つの「タブー」だった。そのような試みを、東方夢時空で実行したのが岡崎夢美である。今作の蓮子とメリーのモチーフに、夢美ほどふさわしい人物はいない。
七夕坂夢幻能 タブー破りの兆候
七夕坂夢幻能において、異界の存在を物理学的に証明することはタブーである。本作は蓮子の論文執筆という出来事を通じてそれを描いた。だが、蓮子が論文を書く前にも、それがタブーであったことを仄めかす描写がある。音楽CD『燕石博物誌』の一場面だ。
蓮子とメリーは、メリーが見た不思議な夢の内容(異界での体験)を元に博物誌を作る。メリーの語る異界の話に、蓮子は物理学者の観点から量子論的な解釈を加えていく。やがて「メリーは異界にとって好ましくない"汚れ"なのでは」という考えに至った時、「異物が混入したら、排除しないと」という、誰のものか分からない言葉が不気味な字体で表れる。
この場面で流れるCDの曲名は『禁忌の膜壁』。メリーが行き来する別の世界を、蓮子がブレーンワールド(宇宙は薄い膜のようなもので出来ているという仮説。そのような膜=世界がいくつも存在するらしい)に例えたことによる。蓮子は異界の存在を物理学的に看破し、「禁忌(タブー)」に触れた。先述の不気味な言葉は、タブーに触れた蓮子への「戒め」ともとれる。
燕石博物誌で蓮子の触れた「タブー」が、七夕坂夢幻能での論文執筆によって「破られようとした」と考えることもできる。
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