今現在大変な衝撃を受けているのですが、去年岩波少年文庫から発刊された『小さな手 ペティットおばさんの怪談』という英米の怪奇小説アンソロジー、表題作は以前創元推理文庫から平井呈一編・訳の『恐怖の愉しみ』下巻に収録された『一対の手』という短編の新訳なんです。訳は金原瑞人。

それでこれ平井版だと語り手兼主役のペティットさんは高齢の独身女性で、岩波少年文庫版では「ミセス・ル・ペティット」になってる。先ほど岩波版を初めて読んでえええ、と思い、『恐怖の愉しみ』が家に上巻しかなくて確認できなかったのですが、ネットで原文を探してみたところ「Miss Le Petyt」なんですよ。

……なんでこんなことするんだろう。新訳で若い人にも広く知られるのは素晴らしいことだけど、私は独身で幸せなまま年を取ったペティットさんのことが大好きで、物語にも一人である不安と喜びが両方ちりばめられているのに。これ物語の趣も全然違ってきちゃうじゃん。もう腹が立つ以前にすごく悲しい。

翻訳は平井呈一は古めかしさがあるけれど、闊達な語り口が素晴らしいしラスト一行の切れ味の鋭さに関しては金原訳は到底及びません。岩波がこんなことするなんで、本当に悲しい。

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去年ポストした文章がBTされていてびっくりしたのですが、『一対の手 ある老嬢の怪談』が収録された『恐怖の愉しみ』下巻が国立国会図書館デジタルコレクションで公開されています。興味のある方はどうぞ読んでみてください。
ミス・ル・ペティットの、怪談の主人公とは思えない朗らかさや秒で最適解を選ぶ判断力の凄さ、はにかみ屋の幽霊の可愛らしさ、女性たちの短くも楽しい生活の描写、すべてが大好きなので、読む人が増えたらとても嬉しい。
私は何度読んでも幕切れの鮮やかな一行に涙してしまいます。

『一対の手』にリンク張っておきますが、ほかの短編も全部面白いです!

dl.ndl.go.jp/pid/12583201/1/62 [参照]

金原訳、主人公の属性や称号を変えるだけじゃなくて副題を親しみやすいものにするためか「おばさん」って単語使ったり属性あいまいにしたり、問題がとても多いと改めて思うんだけど、最後の一行のいくつかの単語を省いて翻訳してるから、平井訳と比べて後味というか余韻が全然違うんだよね……。両方読み返したらやっぱり腹が立ってしまった。

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