クエンティン・クリスプ『魔性の犬』感想、残酷な描写がある小説の感想なので一応
動物しか愛さない偏屈な貴族が死亡し、遺産をすべて飼い犬に贈る。遺産狙いで愛玩動物たちを密かに殺していた使用人夫婦は犬に仕えることになるが、犬の散歩途中に出会った娼婦と夫が浮気する。不能の夫の代わりに犬と娼婦が関係を持つことになり、娼婦は妊娠し犬の特徴と人間の特徴を持った子どもを産み……というストーリーで、犬という生き物をこれほど気持ち悪い生物として描き出した小説は初めて読んだ。
人間の描写についてはその暗部を暴くというより、上品かつ突き放した乾いた筆致で描かれるのであんまり嫌悪感を持たずに読めてしまう何だか不思議な作品。意外なのは、使用人の妻が主人と夫に抑圧されて正しい判断ができない状況や娼婦の歩んできた人生が垣間見えるときに、ほんのわずかだけど作者の筆に同情や共感が宿っている……気がすること。主人公であるチョッグと呼ばれる犬と人間の子(ChildとDogを合わせた言葉。大変酷いと思う)の哀れな運命にも。いやみんな大変なことになるけど。
クエンティン・クリスプ、これしか翻訳がないようで残念です。他の小説も気になるし、自伝も読みたい。
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