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2023年最後の読書はファン・ジョンウン『百の影』でした。
2010年に刊行され、現在では「2000年代韓国文学における最も美しい小説」と呼ばれているとのこと。

電気機器専門店が並ぶ巨大ビル群で働く二人の若い男女を中心に、再開発による撤去に揺れる人々の姿を描いた、幻想的な連作。主人公二人もその周りの人々にも、暴力や不幸の気配を感じさせつつ(それは自分の影法師が立ち上がり、やがては自分を支配していく姿として描かれる)、徐々に人間関係も不安も変化していく日常の様子が静謐に綴られた作品です。慎重に近づいていく主人公二人が好もしく、宙ぶらりんのようでいて、闇の先に小さな光が灯るようなラストもとても好きです。

この本は作者自身のあとがき、2002年に書かれたふたたびのあとがき、そして訳者あとがきも含めて一編の小説であるように思います。執筆当時の韓国の社会状況は訳者あとがきに詳しく、現在の作者が語った二人のその後に安心すると同時に、暴力があふれる世界を何とかしのいでいこうとする人々の姿に静かな勇気が湧いてきます。

ファン・ジョンウンは『ディディの傘』が凄まじい傑作で、「生きている」という実感が火花のように閃く一瞬をこんな風に描くことができるんだ、とびっくりしました。



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