セルマ・ラーゲルレーヴ『キリスト伝説集』より、『聖なる夜』
クリスマスの夜におばあさんが孫娘にしてあげたお話。
真夜中、一人の男が家々を巡って尋ねる。《妻がお産をしましてな、親子をぬくめてやるために火がいりますのじゃ》誰もが寝静まっていて、答える者はいない。
男は遠く野天に焚火を囲む羊飼いと、たくさんの羊と牧羊犬を見つけ、火を借りるために彼らのもとへと歩み寄る。
羊飼いは意地が悪くて情け知らずの老人だった。男に犬をけしかけ、羊に邪魔をさせようとするが犬も羊も微動だにしない。持っていた杖を投げつけるが、杖は男からそれて飛んで行く。
焚火から火傷もせず素手で燠を取り上げた男に興味を惹かれ、羊飼いはこっそり男の後をつける。男が帰ったのは家ともいえない洞穴で、むき出しの石の上には出産を終えたばかりの母親と、生まれたての赤ん坊そのまま寝かされていた。
意地悪で情け知らずの羊飼いにも、罪のない赤ん坊を哀れに思う気持ちと親切心が生まれる。肩の袋から羊毛を取り出して、赤ん坊をここに寝かせてあげなさい、と男に伝える。
その瞬間、羊飼いの心の目が開いて、今まで見ることのかなわなかった天使たちを見る。天使たちは生まれたばかりの赤ん坊を讃え、声高く歌っていたのだった。
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キリストの誕生を寿ぐ物語ではある。けれど後半の奇跡の描写よりも、情け知らずの羊飼いにも自然に湧き上がる小さな子への哀れみと、「助けなければ」という思いの描写に、現在も続く紛争と犠牲となる子供たちを思い胸が苦しくなってしまった。
誰もがこの羊飼いのように、己の良心を見つけることができればいいのに。
ラーゲルレーヴは女性初のノーベル文学賞受賞作家。NHKでアニメ化された『ニルスの不思議な旅』でスウェーデンの国民作家となり、女性解放運動の旗手として精力的な活動を行った。
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