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J・ジョイス、W・B・イェイツ他『妖精・幽霊短編小説集』
『ダブリナーズ』から数編を選び、同時代のアイルランド・イギリスで書かれた妖精・幽霊譚と並べたアンソロジー。
私が読んだのは福武書店の高松雄一訳『ダブリンの市民』で、読了時はリアリズム小説だと思っていたのですが、こうして並列して読んでみると、現実の向こうに異界が透けてみえるようでまた違った一面が見えてくる。当時は降霊会も盛んで妖精も幽霊も今より身近でリアルだったのだろうけど。
そして『姉妹たち』で始まり『死者たち』で終わるダブリナーズの構成が、改めて素晴らしいな、と。

このアンソロジーで再び『ダブリナーズ』に触れて、新鮮な思いとともに気になったのがジョイスが描かなかったこと。例えば『エヴァリーン』のヒロインを旅立たせなかった母の言葉、『粘土』の主人公が触れた箱の中身。気にせず読んでいた部分にオカルティックな含みが感じられて、良いかんじに怖かった。ジョイスの諸短編もですが、オブライエン『何だったんだあれは?』やディケンズ『信号手』や小泉八雲の『雪女』等の有名作、またイェイツの『キャスリン・ニ・フーリハン』等初めて読んだ戯曲も一つの世界に収れんしていくような面白い本。翻訳もとてもよかったです。

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