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9月に読んだ本その3
キャスリーン・ニクシー『信じる者は破壊せよ 古代ギリシア・ローマ、キリスト教が招いた暗黒の世紀』

副題の通りです。313年のミラノ勅令を持って合法化されたキリスト教の信徒が暴徒化し、神殿や古代の神々の像は次々破壊され、書物が燃やされギリシア・ローマの学問が失われてゆき、遂には異教徒(とされた住民たち)が血祭に挙げられる、その過程を豊富な資料を基に細かに綴った本。
その様は、後年のウォラギネ『黄金伝説』等に描かれたキリスト教徒の殉教伝説よりもよほど苛烈だった…という内容で、興味深いけどかなり気が滅入ります。
原初のキリスト教徒たちにとっては悪魔は実在するもので(例えば栄養状態の悪さ等が幻覚を見せた可能性もあるけれど)、聖書に描かれたヤハウェ像とは真逆の人間臭いギリシャ・ローマの神々が悪魔と同一視され、壮麗な神殿や当時の彫刻を破壊しつくすことによって勝利と見做されたこと、またかなり早い段階(紀元170年頃)には新約聖書の矛盾を批判したギリシャの知識人の評論が発売されており、これらが教会によってほぼ破棄されて残っていないこと(ただキリスト教神学者による詳細な批判が残っているため、大体の内容を類推することができる)など、、めちゃくちゃ面白いんだけど、失われたものが大きすぎて。

この暴徒化の背景にはローマ時代の厳しい身分制度があって、当時の高名な女性数学者ヒュパティアの殺害は社会の下層民であったパラバラニと呼ばれる死体を埋葬する仕事を請け負うキリスト教徒の若い男性の集団であったことや、迫害を受けていた奴隷や女性たちに殉教がめちゃくちゃ人気があったこと、この世で不幸であればあるほど天国での幸せが約束されているという教義に則り女性や子供たちが進んで苦しい目にあうために殉教したこと、などが描かれ、なんか…私はゴットフリート・ケラーの『七つの伝説』というキリスト教伝説集がとても好きで、聖母マリアをはじめ、ローマ時代や中世の女性の活躍が多々描かれる楽しい本なのですが、次に読むとき前と同じ感覚ではもう読めない…。
またキリスト教徒の数が増えると人気取りのためにすり寄るローマ提督も現れる、などの地獄が出現。そして文化が破壊しつくされたところで勝利は達成される、と。
念のために書いておくと、これらの暴徒化は新約聖書の内容とは大きく乖離しており(なにせ当時は識字率が低い)、この本の著者もキリストの教え自体を否定はしていません。
重い読書ではありましたが、ほぼ一気読みでまた読み返したくなる本。神殿神像やアレクサンドリア図書館等の美しい描写もたまらない(それが失われたことを思うと、さらに)。

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