お題:現状の知見では「自動運転車の普及により事故が減らせる」とは断言できない
Google系列の完全自動運転タクシーを運営する企業Waymoは、「Waymoの完全自動運転車の事故率は人間よりも低い」と発表した。これについての若干の補足情報と、自分の意見を述べる。
Waymoの発表は次の通り。
New Data Hub Shows How Waymo Improves Road Safety
https://waymo.com/blog/2024/09/safety-data-hub/
(Gigazineの日本語記事)
https://gigazine.net/news/20240911-waymo-human-drivers/
人間が運転する自動車は、1億走行マイルあたり約1名(注1)の交通事故死亡者を出している。これは数万人の交通事故死亡者の命であがなわれたデータである。自動運転車による死傷者は、人間のドライバーより有意に少ないといえるのか。ここが論点となる。
Motor Vehicle Crash Deaths — United States and 28 Other High-Income Countries, 2015 and 2019
https://www.imic.or.jp/library/mmwr/21930/
注1:2019年の記録では、21カ国平均で0.93人。
(続く)
「安全」「リスク」に関する学術的な知見は日々アップデートされている。そして交通事故のような「非常に低い確率でまれに起きる現象」を考えることは、実はけっこう難しい。単純な統計や外挿で考えると間違った結論を導きやすい。
ACMは、自動運転車の安全性を正確に評価するには110億マイルのテスト走行が必要としている。これは、Waymo車がすでに走行した距離の500倍に相当する。ひとついえることは、現状は圧倒的なデータ不足なので「安全」と断言する段階にはないということだ。
ACM TechBrief: Automated Vehicles Winter 2024
https://dl.acm.org/doi/book/10.1145/3654812
追記:
当たり前だが重要な話をひとつ。「Waymoの自動運転車の事故率が低いと報告された」ことは、Waymo以外の会社、例えばテスラや他のメーカーの自動運転車が安全であることを意味しません。現状では、開発会社は各社がバラバラに自動運転技術を開発しているからです。
Uberは自動運転車のテスト走行中の事故で人を死なせましたが、その後、自動運転部門を売却してしまいました。
GMの子会社Cruiseはサンフランシスコの自動運転タクシーが人身事故を起こした後、事業を中断しています。事故の後の社内はドタバタ状態だったようです。
自動運転車はある確率で人を殺す機械です。しかし、少なくともUberとCruiseは「自動運転車の人身事故が起きたときに、どうするか」を考えていませんでした。
そして、人身事故の貴重な教訓がその後の各社の自動運転の研究開発に反映されているのかどうか——残念ながら、事故の教訓が活かされているという話は伝わってきません。
このままでいいののかどうか、私は疑問を持っています。自動運転技術の安全性を高めるためには、業界横断の取り組みが求められるのではないかと考えています。